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M&A業界からインドアゴルフ業界への転身
まず、高須賀さんのご経歴について教えていただけますか。
もともと私はM&Aの仕事をしており、その後、全く異なる業界であるインドアゴルフ事業に参入しました。現在は会員制のシミュレーターを備えた完全無人インドアゴルフ場を経営しており、株式会社SMART GOLFとして事業を展開しております。
M&Aのキャリアを捨てて、全く違う業界に飛び込まれたのですね。どのようなきっかけがあったのですか。
実は副業として始めたのがきっかけでした。ただ、インドアゴルフ事業に目をつけたのはゴルフへの情熱からではありません。
ビジネスモデルに惹かれて起業を決意
ゴルフがお好きで始められたわけではないのですか。
ゴルフは好きではあるのですが、それほど頻繁にプレーするわけではありません。事業を始めた理由は、ビジネスモデルが非常に優れていると感じたからです。
まず、無人運営のため店舗を出店しても教育コストや人件費がかからないという点が魅力的でした。さらに、完全会員制のストックモデルなので、売上が読みやすく、収益性も高い。投資の利回りも良好なので、「これはやってみる価値がある」と判断しました。
ビジネスとしての合理性を重視されたのですね。
そうですね。加えて、需要があると確信したことも大きな理由です。参入当時、練習特化型の施設はまだ市場にありませんでした。中上級者向けの、一人で黙々と練習できる施設が本当に存在しなかったのです。
もしこのモデルがうまく機能すれば、リピーターを獲得し、たくさん展開できる可能性があると考えました。実際に参入してみて、その読みは正しかったと実感しております。
資産家の支援で最初の10店舗を直営展開
起業に際して、資金調達はどのように進められたのですか。
前職を辞めて事業を始めるにあたり、私が懇意にしている経営者の方に相談いたしました。
その際、「今の私のキャリアを捨てて年収を10分の1にしてでも働きます。その代わり株式の一部を持っていただき、3億円分の融資をしていただけないでしょうか」とお願いしました。
年収10分の1というのは、相当な覚悟ですね。
はい。しかし、その方はすぐに握手して「やろう」と仰ってくださいました。その支援をいただいて、最初に直営店を10店舗出店したのです。そこで実績を作り、その後フランチャイズ展開と直営展開を組み合わせる形で事業を拡大していきました。
本部がリスクを負う投資型フランチャイズという革新
現在は直営とフランチャイズが半々の比率とのことですが、この形に至った経緯を教えていただけますか。
当社のフランチャイズモデルは、通常のフランチャイズとは若干異なる形態を採用しております。「投資型フランチャイズ」と呼んでいるのですが、フランチャイズオーナー様には資金だけをご提供いただき、不動産の契約から設備の設営、運営まで全て我々が行うという形です。
完全な投資型モデルなのですね。通常のフランチャイズとの違いは何でしょうか。
通常のフランチャイズでは、オーナー様ご自身が店舗運営に深く関わり、アルバイトや社員のマネジメント、日々のオペレーションなどを担当されます。しかし当社のモデルでは、オーナー様は投資家として資金を提供するだけで、あとは全て本部である株式会社SMART GOLFが責任を持って運営いたします。
本部側の負担がかなり大きいように思えますが。
おっしゃる通りです。人材も場所も全て我々が用意しなければなりません。つまり、本部がリスクを負うフランチャイズモデルになっているのです。
よくあるフランチャイズでは、本部側だけがロイヤリティを徴収するような仕組みもありますが、私はそのあり方に疑問を感じておりました。そのため、オーナー様と同じ方向を向ける形の枠組みを考え、現在のモデルを構築しました。
投資型フランチャイズという形態は一般的なのでしょうか。
いえ、まだ非常に希少だと思います。私の知る限りでも数社程度しか存在しないのではないでしょうか。
赤字保証もされているとのことですが。
はい。オーナー様との条件として、赤字保証をさせていただいております。基本的に、最初の投資金額以外に追加の支出が発生しないような設計になっております。
他の投資商品と比較していただき、株式会社SMART GOLFへの投資の方がリターンが良ければ選んでいただけるという、投資商品としての側面もあります。
実際の店舗の収益状況はいかがですか。
現在、フランチャイズ店舗は約80店舗ございますが、実は1店舗も赤字保証を実行している店舗がございません。つまり、全店舗で利益が出ているという状況です。
当初投資回収を5年程度で見ていただいているのですが、2年から3年程度で投資回収を完了している店舗もございます。
それは素晴らしい実績ですね。成功の秘訣は何でしょうか。
集客できる適切な立地を本部で判断しているからこそ、その後も順調に運営できているのだと考えております。
通常のフランチャイズでは、フランチャイズオーナー候補の方がご自身で物件を探されることから始まると思います。しかし我々は先に物件を契約し、パッケージとして「この店舗はいかがでしょうか」という形でご提案しているのです。
4年で150店舗、3年後には400店舗を目指す成長戦略
現在の店舗数と今後の展開について教えていただけますか。
現在、全ブランドを合わせて150店舗ほど出店させていただいております。直営とフランチャイズの比率はほぼ半々です。
今後の展開としては、店舗型ビジネスの場合、店舗数が非常に重要になります。我々も独自のシステムを開発したり、他社に負けないサービスを提供しているものの、参入障壁がそれほど高くないビジネスモデルであることも事実です。
そのため、まずは素早く市場シェアを獲得することが重要だと考えており、向こう3年で400店舗程度の出店を目指しています。
4年で150店舗も驚異的ですが、さらに3年で400店舗というのは相当なスピード感ですね。
現状では月に5店舗程度のペースで出店しておりますが、今後は月に7〜8店舗程度のペースに加速していく予定です。
そうなると物件探しが大変ではないですか。
その通りで、毎日3,000件ほど新着物件をチェックしております。
3,000件もあるのですか。
はい。インドアゴルフ施設には特殊な条件が必要なのです。まず、オーナー様が気にされるのは音の問題です。また、24時間営業に慎重な姿勢のオーナー様も多くいらっしゃいます。
さらに最も大きな制約が天井高です。ゴルフスイングをするため、身長が高い方ですと天井高が3メートル程度必要です。天井高3メートルある物件は、実は全体の3〜4%程度しかないと言われています。
そこまで条件が厳しいのですね。物件選定の基準はどのようなものですか。
詳細は企業秘密の部分もございますが、出店が事業の肝ですので、いくつかの重要な指標を必ず確認しております。
まず、夜間人口数です。そこに住んでいる方の人口が顧客の母数になりますので、この数字は非常に重要です。
次に競合環境も重要になります。目の前に同じようなインドアゴルフ施設があると、お客様が分散してしまう可能性があります。
加えて、家賃相場、目の前の人流データ、つまりどれくらいの人が通るか、生活動線上にあるかどうかといった点も重要なポイントになります。
フランチャイズオーナー様は物件を選べるのですか。
基本的には3〜4物件程度をご提案させていただき、その中から選んでいただく形になります。どの物件も良い店舗ですので、我々は直営店のつもりで全店舗を確保しに行っております。
ただ、土地勘があるところを選ばれたり、ご自身が通いたいからという理由で選ばれる方もいらっしゃいます。また、ご自身が経営されている会社の社員に福利厚生として利用させたいといった、関連事業と絡めて投資される方もいらっしゃいますね。
韓国の成功事例に学ぶ市場の可能性
インドアゴルフという業態は日本独自のものなのでしょうか。
実は韓国が発祥でして、2000年代初頭頃からGOLFZON(ゴルフゾン)というメーカーがうまくマーケティングを展開し、現在では日本のカラオケ店舗数の約2倍もの数のインドアゴルフ場が韓国には存在しています。
韓国では、練習というよりはビリヤードやダーツの延長のような、エンターテインメント施設としての側面が強く、お酒や食事も楽しめる店舗が多いのです。
韓国でそれほど普及しているのですね。
はい。そして重要なのは、土地が狭く寒暖差が激しいという点で、日本と韓国は非常に似ているということです。ですので、日本でもさらに大きなポテンシャルがあると考えております。
特に夏場は暑さでゴルフの練習が大変ですから、クーラーの効いた室内で練習できるというニーズは確実に存在します。
海外展開のご予定はありますか。
現状では具体的な計画はございませんが、東南アジアの、これから高齢化社会に向かっていく国で、所得水準が高い国には出店の可能性が十分あると考えております。
独自システム開発で競合との差別化を実現
株式会社SMART GOLFならではの特徴や、競合他社との差別化について教えていただけますか。
まず、サービス面の特徴として、現在自社でのシステム開発に力を入れております。その一つが「打球診断機能」です。
シミュレーターには弾道分析機器が付いているのですが、かなり専門的な数字や分かりにくい数値が表示されることがあります。
そこで我々は、この数値がどういう意味を持つのか、お客様のスイングが8項目において適正なのかどうかを、マルかバツで診断してくれる機能を開発しました。
初心者の方にも分かりやすい工夫ですね。
また、シミュレーター自体は韓国製のものがほとんどで、当社も韓国製のものを導入しているのですが、操作がやや複雑なのです。
様々な機能があるのに使いこなせないという課題がありましたので、例えば傾斜からの練習や登りからの練習など、お客様がよく使う機能をワンタッチのプリセットとして用意しました。シミュレーターの上にもう一台モニターを設置し、そこで簡単に操作できるようにしたのです。
ユーザビリティを高める工夫をされているのですね。他にも特徴はございますか。
オプションではございますが、レッスンコーチの派遣も可能です。さらに、オンラインレッスンというサービスも提供しており、モニター越しにレッスンコーチが指導してくれるシステムを導入しております。
無人施設でありながら、オンラインで繋ぐことで1時間3,000円程度で専門的なレッスンを受けられる環境を整えております。
無人とパーソナルサービスのハイブリッドという形ですね。
そうですね。フィットネス業界では、パーソナルトレーニングブームの後に無人ジムが流行り、また揺り戻しが来るというサイクルがあると聞きます。
当社も時代の波を読みながら、気軽に通える無人施設という基本は維持しつつ、手厚いサービスを求めるお客様にはオプションで対応できる柔軟性を持たせております。
インドアゴルフ市場を牽引するリーダーとして
最後に、今後株式会社SMART GOLFをどのような会社にされていきたいとお考えですか。
当社のビジョンとして掲げているのは、「インドアゴルフをもっと身近な世の中に変えていく」ということです。
まだ150店舗程度ですが、さらに店舗数を増やしていき、インドアゴルフがもっと一般化されるような世の中を、先頭に立って作っていきたいと考えております。
企業経営者としての高須賀さんご自身のモチベーションは何でしょうか。
企業経営そのものが非常に面白く、好きなのです。どこまでできるのかという挑戦心で取り組んでいる側面が強いかもしれません。
当然、収益を上げたいという思いもございますが、それ以上に、インドアゴルフ業界の中で自分の手でどこまで伸ばせるのか、そして業界の中でのポジショニングをしっかりと確立していきたいという思いが強いです。
我々はこれから市場を作っていく立場にありますので、業界のリーダーとして責任を果たしていきたいと考えております。





