1. トップ
  2. IT・WEB サービス 不動産
  3. アスベストの「不条理」をなくしたい。法令遵守SaaS「アスベストONE」が目指す、安心・安全な社会の基盤づくり

アスベストの「不条理」をなくしたい。法令遵守SaaS「アスベストONE」が目指す、安心・安全な社会の基盤づくり

株式会社EMS
代表取締役社長 星 美耶氏
公開日:
2026.07.01
更新日:
2026.07.23

コロナ禍の苦境が、使命感へと変わった

まず、星社長のご経歴を教えてください。

私は京都出身で、東京の成城大学を卒業後、すぐに京都へ戻りました。社会人としてのキャリアは、父が代表を務めるJNSホールディングスのグループ会社で、採用担当としてスタートしました。

その後はどのような仕事を経験されたのでしょうか。

その後、創業直後のグループ会社 ジャパンリゾートへ異動し、京都 嵐山・清水寺にてホテルやカフェの立ち上げに携わり、そこで代表として約7年間、事業運営を担いました。

こうした経験が、私にとって経営者としての原点になっています。

コロナ禍が転機になったとのことですが、どのような経験をされたのですか。

2020年にコロナが本格化したとき、京都という土地柄もあり、ホテルもカフェも売上がほぼゼロになってしまいました。約1年半にわたり厳しい状況が続き、営業面では大きな苦労を経験しました。親会社の支えがあったため事業継続には問題ありませんでしたが、先の見えない日々が続いたことは大きな試練でした。

その経験から、どのようなことを感じましたか。

改めて「自分はずっと、安心で安全な世界であることが前提の中で、お商売をさせてもらっていたんだ」ということに気づきました。目に見えないウイルスひとつで、これほど世界中の事業が機能しなくなってしまう。私が7年間大切に育ててきたホテルやカフェの事業が、あっという間に立ち止まってしまったことへの衝撃は、今でも忘れられません。

そこから、次のステップへと気持ちが向かっていったのですね。

そうですね。7年間、代表として経営を続ける中で培ってきた経験やスキルを、もっと社会の根本的なところ、安心・安全を形作るような仕事に活かせないかと、考えるようになりました。旅行や飲食を通じて人を喜ばせることは本当に好きでしたし、今もその想いは変わりません。

しかし、コロナ禍を経験したことで、よりベーシックな社会インフラの部分に関われる仕事がしたいという気持ちが強くなっていったのです。

EMSとの出会いには、どのような経緯があったのでしょうか。

ちょうどその頃、父から東京でEMSという会社が立ち上がること、アスベストに関する深刻な問題があることを初めて聞きました。東京でのチャレンジという意味でも魅力を感じましたが、それ以上に、社会の安心・安全という基盤づくりに携われる点に強く惹かれました。それからEMSにジョインし、約1年半後に代表に就任して現在に至ります。

ホールディングスの知見を結集した、アスベスト法令対応SaaS

株式会社EMSの成り立ちについて教えてください。

弊社は、JNSホールディングスグループの一員として設立された会社です。JNSホールディングスは、建設系の産業廃棄物処理事業を中心に展開してきました。また、EMSの前身となる株式会社ユニバースと一般社団法人CERSIは、東京で10年以上にわたり、環境コンサルティング事業や専門資格取得支援事業を手掛けてきました。

そのノウハウをどのように活かしているのでしょうか。

EMSは両法人が蓄積してきた知見やノウハウを、SaaSというシステムの形に昇華させました。

グループ全体として進めてきた「これまで手作業で行ってきた業務を、システムによって効率化・標準化する」という流れの中から誕生しました。私自身にとっても、観光・飲食業界から全く異なる分野への大きな挑戦でした。

御社が提供する「アスベストONE」とはどのようなサービスですか。

「アスベストONE」は、建設工事の際に必要となるアスベスト法令対応を遵守・効率化し、適切な運用をするクラウドサービスです。アスベストに関する複雑な手続きを一元管理できるため、事業者の負担軽減につながります。

具体的には、どのような業務をサポートしているのでしょうか。

建物の改修や解体工事を行う際には、アスベストの事前調査や行政への届出・報告、工事中の適切な対応など、さまざまな法令上の手続きが求められます。アスベストONEは、それらを抜け漏れなく管理しながら、現場のオペレーション負荷を大幅に軽減できるよう設計されています。

競合の中で唯一、法令を「1から10まで」満たせる

同じ領域の競合サービスとの違いを教えてください。

この領域では現在、4〜5社程度がサービスを展開しています。ただ、機能が完全に重なっている会社はほとんどないというのが実情です。私たちが最も重視しているのは『アスベストの法令遵守(コンプライアンス)』そのものであり、法令遵守に必要な一連のステップを、一つのシステムで完結できる点が私たちの強みだからです。

アスベスト関連法令への対応を完全に守っている状態を10としたとき、「アスベストONE」は1から10まですべての要件に対応できるのですが、一方、他社のサービスが対応できるのは、「法令遵守」という視点から見ると10までは網羅しきれていない部分もある、というイメージです。

私たちは「法令遵守を完全に実現すること」、そして「工事に携わる人はもちろん、建物近隣の皆様をアスベスト被害から守ること」を設計思想の中心に置いているため、必要なすべての対応をシステム上で完結させることができます。

システム上で完結できることの背景には何があるのでしょうか。

この網羅性を支えているのが、グループ会社ユニバースが15年以上積み上げてきた現場の知見と、業界専門家としてのノウハウです。法令ごとの要件や、現場で起こりやすい漏れを熟知しているため、必要な対応をシステム上で完結できる仕組みを実現しています。そのため、他社がリーチできていない領域をカバーできているのです。

導入実績はいかがですか。

2026年6月現在、累計利用社数で1万3,000社以上にご導入いただいています。サービス開始から2026年6月で4年です。SaaSとしては非常に順調な成長だと評価いただくことが多いですね。

一方で、課題もあるのでしょうか。

私自身は、まだ道半ばだと感じています。

日本全国にはアスベストの法令対応が必要になる対象企業が、建設業者だけでも約16万社あります。弊社の提供する「アスベストONE」の累計利用社数が1万3,000社というのは、システムが必要な企業の一部にしかリーチできていないと言えます。

業界全体が適切に法令を遵守できている状態には、まだ距離があります。そのため、より多くの企業にサービスを届け、業界全体の課題解決につなげていきたいと考えています。

「正直者が馬鹿を見る」構造を変えたい

アスベスト対応を取り巻く現状について、どのような課題を感じていますか。

法改正によってルールは整備されてきていますが、現場ではまだ十分に浸透しているとは言えません。私たちが業界を見ている中でも、法令対応に関する理解不足や運用上の課題は少なくないと感じています。

なぜ、そのような状況が生まれているのでしょうか。

大きく2つの要因があると考えています。

1つは一般の方の認知の低さです。たとえばお子さんが通っている学校で改修工事のお知らせが来たとき、「アスベストの対策はちゃんとしてもらえるのか」と確認する親御さんは多くないと思います。また、近所で解体工事が始まっても、騒音は気になってもアスベストの対策まで意識する方は少ないでしょう。これはアスベストの健康被害に関する一般認識がまだまだ低いことに原因があると感じています。

ルールが現場に浸透しない、もう一つの背景について教えてください。

行政としても監視・取り締まりの仕組みはしっかり整備されています。

環境省や厚生労働省の労働基準監督署が、工事現場への立入調査や行政報告の確認を行い、違反があれば行政指導・処分、悪質な場合は工事停止といった対応も可能な体制です。ただ、対象となる工事の件数が膨大であることに加え、現場を監視する人員やリソースにはどうしても限りがあります。そのため、すべての工事現場をくまなくカバーするのは現実的に難しい面がある、というのが背景にあるのではないかと考えています。

一般の方の認知度と監視体制が噛み合っていないのですね。

その結果、法律を守るために時間やコストをかけている事業者と、そうでない事業者が同じ土俵で競争させられるという理不尽な状況が生まれています。まさに「正直者が馬鹿を見かねない」状態です。

「アスベストONE」が売れること以上に、大切にしていること

そうした課題に対して、どのようなアプローチをとっていますか。

私たちがやるべきことは2つだと考えています。

1つは「アスベストONE」の普及を通じて、業者が法令対応をしやすくすること。もう1つは、認知を広げることです。発注する側の企業や一般の方が「適切なアスベスト対策を行う業者を選ばなければならない」という意識を持てるようになれば、業界全体の動きが変わります。

こうした取材をお受けしているのも、その一環です。アスベストの問題や現状を一人でも多くの方に知っていただくことが、社会をより良い方向へ動かす第一歩になると考えています。

御社のシステムを広めること以上に、この問題を社会課題として伝えることに重きを置いているのですね。

もちろん、「アスベストONE」をご利用いただくことは弊社にとって大切です。ただ、それ以上に重視しているのは、アスベストによる健康被害件数をゼロにするということです。

アスベスト起因の中皮腫は、今も多くの方の命を奪っています。発症すると最後は息ができなくなって亡くなってしまうという、非常に苦しい経過をたどる病気です。そしてそれは、適切な対策をとれば防ぐことができる。だからこそ、その不条理をなくしたい。

その想いが、事業にもつながっているのですね。

そうですね。事業者の皆さんには法令を守り、適切な対策を徹底してほしい。そういう社会を作ることが、私がこの仕事をしている根本的な理由です。

環境管理の「総合プラットフォーム」へ

今後の事業展開の方向性を教えてください。

これからの規制環境を見ると、企業が守らなければならない法令は、厳しくなることはあっても緩くなることは、今までの環境法令を見ていてもほとんどないと考えています。大企業を中心に、環境や社会への責任を果たすことへの要求はどんどん高まっていくでしょう。

その中で、今後はどのような領域に注力していくのでしょうか。

現在、私たちはアスベストと産業廃棄物の対応の分野で強みを持っています。産業廃棄物については、親会社グループが長年取り組んできた領域であり、グループ会社ユニバースの蓄積もあります。

今後はそれらに加え、脱炭素目標の管理やCSR活動の記録・報告など、企業の環境関連コンプライアンス全体を一元的に管理できる「環境統合プラットフォーム」の構築を目指しています。

念願だった「アスベストONE」第1回ユーザー会で挨拶をする星氏

その先に目指す姿を教えてください。

アスベスト・産廃・脱炭素・法令対応。これらを包括的に解決できるプラットフォームを作り上げることが、私たちの次のステージです。企業のコンプライアンス・環境担当者が「環境に関することはEMSのシステムに任せておけば間違いない」と思ってもらえる存在になることが目標です。

「第3創業」で目指す、人を育て、貢献の範囲を広げる会社

中長期のビジョンについてはいかがですか。

私は3代目の経営者です。祖父が会社を創業し、父がJNSホールディングスとして8社規模にまで育て上げました。その次の世代を担う立場として、私は「第3創業」を実現したいと考えています。

第3創業に向けて、特に重視していることは何でしょうか。

私の経営のテーマは2つあります。

1つは「人を残す経営」です。会社は人で成り立っていますから、スタッフ一人ひとりが社会に対してリーダーシップを発揮できる人材になれるような、教育と成長の仕組みを作りたいと思っています。スタッフたちが社会の逸材になっていくような会社を目指したいですね。

もう1つのテーマについて教えてください。

「貢献範囲の拡張」です。三方よし、という言葉の通り、スタッフ・お客様だけでなく、業界そして社会に対して、もっと目に見える形で貢献できる会社にしたいと思っています。ファミリーの枠を超えて、広く社会に影響を与えられる経営をしていきたい。それが私の描く第3創業の姿です。

上場についてはお考えですか。

視野には入れています。実際に、本格的に準備を進めようとした時期もありました。ただ、上場には組織としての整備が相当必要で、まだそこまで整いきっていないという判断から、現時点では一旦社内の環境を整えている状況です。

今後はどのように判断していくのでしょうか。

上場を諦めたわけではありません。「第3創業」を実現するために本当に必要だと判断すれば、必ずやり抜くつもりです。一方で、目指す姿の足かせになるようであれば上場しない選択もあり得ます。

上場はあくまで手段であって、目的ではないと考えていますので、冷静に判断していきたいと考えています。

最後に、一緒に働きたい方や、つながりたいパートナーへのメッセージをお願いします。

私たちは、「社会の安心・安全をつくる」という使命に共感し、情熱を持って取り組んでくださる方を求めています。ITやSaaSに関する知識はもちろん歓迎ですが、それよりも、社会課題に正面から向き合う姿勢を大切にしたいと考えています。

アスベストによる健康被害を0にする。その目標に向けて、一社でも多くの仲間を増やし、安全で安心して暮らせる社会づくりに貢献していきたいと考えています。

CONTACT お問い合わせ

こちら会社にご相談(ご連携)されたい方は、BIZPREPまでお問合せください

CONTACT

COMPANY 企業情報

企業名
株式会社EMS
代表者
星 美耶
所在地
東京都千代田区丸の内3-4-1 新国際ビル4階
設立
2021年07月
事業内容
(1)石綿・産廃管理の業務システムアスベストONEの提供・導入サポート
(2)環境対策の人材育成
HP
https://kk-ems.jp/

一覧へ戻る