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変わらない業界だからこそ、変革を。70年続く乾燥剤メーカーのBtoC挑戦

山仁薬品株式会社
代表取締役社長 関谷 康子氏
公開日:
2025.11.26
更新日:
2026.02.25

70年続くシリカゲル専門メーカーとしての独自性

まず、御社の創業の経緯についてお聞かせください。

当社の創業は、70年ほど前に遡ります。当時、祖父がアメリカから日本に上陸するというシリカゲル(乾燥剤)の情報を知り、「これを扱おう」と決意して会社を立ち上げました。シリカゲルは、湿気を吸収する特性から、現在もさまざまな製品の品質保持に欠かせない素材となっています。

私自身は、もともと会社員として働いていましたが、二代目であった父に後継者がいないという状況になり、私が会社を継ぐことになりました。

御社の事業内容と、業界における特徴について教えてください。

日本には乾燥剤を扱う企業がいくつか存在しますが、シリカゲル乾燥剤のみを専門に扱っている会社は、実は10社に満たないとみています。特に、シリカゲルだけで事業を成立させている企業は、当社を含めても1社か2社程度ではないでしょうか。

他社が多様な原料の乾燥剤を扱う中で、当社は創業以来、シリカゲル一筋です。この揺るぎない専門性こそが当社の最大の強みであり、70年間にわたって事業を継続できた理由だと考えています。

しかし、この業界には大きな課題があります。それは、業界全体が非常に古く、進化が停滞しているということです。

例えば、移動手段は馬車から自動車へと進化し、切削技術も石器から精密機械へと発展してきました。それに対し、乾燥剤の分野はどうでしょうか。70年間、その基本はほとんど変わっていません。

これまでの業界全体は、非常に保守的な風土で、「お互いまだ何とかやっていけるね」と競合他社とお互いの状況を確認し合うような雰囲気がありました。私はその状況を目の当たりにし、「従来のやり方と同じことをしていては、将来的に行き詰まる」と強く感じるようになりました。

会社員から経営者へ、15年間の学びの日々

関谷社長ご自身が経営者になられた際の心境をお聞かせください。

会社員から経営者に転身した当時は、想像通り非常に苦労しました。

決算書も読めず、父と共に会社を経営していたわけではないため、頼れる指南役もいませんでした。しかし、悩んでいる暇はなかったので、私はただひたすらに勉強を続けました。この「学び続ける姿勢」は今も変わっていません。

誰もが、現状と理想像とのギャップに直面し、悩みます。このギャップをどう埋めるかは、個々の努力にかかっていると私は考えています。当時は辛く感じることもありましたが、今振り返れば、当時の想定を遥かに超える地点に到達できたと感じています。

この15年間で最も大切にしてきたことは、まさに「学び続ける姿勢」です。経営者としての私の役割は、常に未来を見据え、会社をどう成長させていくかを考え続けることだと確信しています。

「この業界は縮小する」という危機感が転機に

御社が大きく方向転換されたきっかけについて教えてください。

2019年頃、私は大きな決断を迫られていました。それは、BtoBの乾燥剤事業は縮小していくという確信を持ったからです。

当社は長年、製薬会社を中心としたBtoB事業に注力してきました。2016年頃から製薬会社に特化した広告を出し始め、一定の成果を上げていました。しかし、その2年後には「この市場もいずれなくなる」と感じるようになったのです。

なぜなら、製薬技術が進化すれば、湿気に強い薬が作られるようになり、乾燥剤が不要になるからです。お菓子などの食品分野でも同様で、防湿技術が進化すれば、乾燥剤の需要は減少していきます。

業界の方々は「日本は湿気が多いから、乾燥剤は絶対になくならない」とよく言います。しかし、私はその言葉を聞くたびに焦りを感じていました。みんなが同じことを言い続けてきた結果、何も変わっていない――この状況こそが問題だと思ったのです。

実は、BtoC市場については、以前から興味を持っていました。当社が得意とする錠剤型の乾燥剤を自宅の調味料の瓶に入れて試してみたところ、非常に効果がありました。「これをBtoC向けに商品化できたら面白いのではないか」と思いましたが、当時は知識もなく仲間もおらず、実現できませんでした。

また、BtoC市場は既にレッドオーシャンでした。クローゼット用、押し入れ用など、さまざまな除湿商品があふれています。そんな中に参入しても勝ち目はないと考えていましたが、2019年には「BtoB事業だけでは、会社の未来はない」という結論に至りました。

コロナ禍をチャンスに、BtoC事業をスタート

BtoC事業を本格的にスタートさせたきっかけは何だったのでしょうか?

2020年、新型コロナウイルスの感染拡大が始まりました。様々な業界の多くの方々が業務を停止する事態となり、当社の売上もゼロになる可能性がありました。

そんな中、ちょうどタイミング良く、ある社員が「どうしても御社で働きたい」と言って入社を希望してきました。私は彼女に「BtoC部署を作るから、そこで一緒にやってみないか」と提案しました。社員たちには「コロナで何が起こるかわからない。今できることをやっておこう」と伝え、BtoC事業を始めることにしたのです。

社員からは「いいんじゃないですか。でも、私たちはやりません」という反応でした。つまり、賛成はするけれど、自分たちは関わらないというスタンスでした。それでも、私は新しい社員と二人で調味料用の瓶専用乾燥剤を手がけ始めました。

最初の2年間は、本当に試行錯誤の連続でした。社員の協力もなく、あまり予算をかけることもできません。そこで、自分たちで商品・パッケージデザインを考え、オンラインでテストマーケティングを試みたりしました。

そうした地道な努力の結果、2023年頃からECサイトでの販売など、少しずつ形になっていきました。

2024年以降は、大型雑貨店や地元のスーパーなどにも置いていただけるようにもなりました。この販売ルートの拡大は、社員の意識にも変化をもたらしました。「自分たちが買い物に行く場所に、自社の商品が並んでいる」という実感が、少しずつ彼らを前向きにしていったのです。 

顧客の真のニーズは「乾燥」ではなかった――靴用乾燥剤「カラッとヒーロー」の成功

御社の大ヒット商品「カラッとヒーロー」の誕生秘話をお聞かせください。

2024年、ある社員がボルダリングジムに通っていました。そのジムのオーナーと会話をしている中で、「ボルダリングシューズ専用の乾燥剤を作ってほしい」という依頼を受けたのです。

ボルダリングシューズは素足で履くため、足先が細く、ぴったりフィットします。そのため、汗で濡れたシューズの匂いは酷く、脱臭と乾燥ができる商品があれば便利だというのです。それまでは海外から取り寄せておられたらしいのですが、製造中止となり、代替品がなく困っていたそうです。

正直なところ、私は靴用の乾燥剤には全く興味がありませんでした。なぜなら、靴用の乾燥剤は市場にあふれているからです。しかも、価格も安い。そのような市場への参入はあまり気が進みませんでした。

しかし、社員から「どうしても実現したい」との強い要望があり、ジムのオーナーとお会いすることにしました。その後、ヒアリング内容を、以前から交流のあったアイデア発明家の方にも共有し、相談を重ねながら、原料や素材、形状、試験などについて半年以上にわたり試行錯誤を続けました。その結果、フレキシブルに形状を変えられるスティック型の試作にたどり着き、靴用の消臭乾燥剤としてテストマーケティングを行うことにしました。


とはいえ、正直なところ「売れる」という自信までは持てず、まずは1,000足分のみを発注するところからスタートしました。ところが、予想に反して、あっという間に売れてしまったのです。予定数量を大きく上回り、最終的には1,400人以上の方に約3,000足分も購入していただきました。

この大ヒットの要因は、どこにあったとお考えでしょうか。

私は、商品を購入してくれた友人に「なぜ当社の商品を選んだのか」と尋ねました。すると友人は「こんな靴用乾燥剤はなかった」と言うのです。

私が「ネットで300円ほどでたくさん売っているよ」と伝えても、彼らは「そんなのなかった」と言い張ります。

「具体的に何がなかったの?」と問うと、返ってきた答えは「色」でした。

当社の靴用乾燥剤「カラッとヒーロー」は、ターコイズブルーとピンクという鮮やかな色を採用しています。従来の靴用乾燥剤は、地味な色や無色透明のものがほとんどです。しかし、当社の新商品は、従来の市場にはなかった鮮やかな色合いでした。

このとき、私は大きな学びを得ました。それは、顧客の真のニーズは、私たちが考えていた単なる「乾燥」や「匂い取り」ではなかったということです。

私たちはマーケティングを学び、顧客のニーズを理解しているつもりでした。しかし、実際には顧客の真のニーズ――潜在的なニーズ――を全く理解できていなかったのです。レッドオーシャンでも、顧客の潜在ニーズをつかめば、十分に差別化できるということを実感しました。

「カラッとヒーロー」の成功は、社内にどのような変化をもたらしましたか?

社内が劇的に活性化しました。新製品が成功したことで、社員たちの意識が大きく変わったのです。「自分も新製品開発に携わりたい」「商品販売時の店頭ポップデザインを担当したい」といった声が、次々と上がるようになりました。以前は受け身だった社員たちが、自発的に提案してくるようになったのです。

また、同じ時期にホームページをリニューアルしました。以前の製薬企業様に向けてブランディングしたデザインから、アニメ調の明るいデザインに変更しました。これも社員のモチベーション向上につながりました。

現在、新しい製品開発も進められているとお聞きしました。

はい。現在、手汗対策用の乾燥剤を開発しています。

実は、以前身近に手汗で深く悩んでいる人がいました。また、携帯電話が濡れてしまったり、パソコンのキーボードを外して洗う必要があったほど、手汗がひどいケースを目の当たりにしていました。

手汗に悩んでいる若い方は少なくありません。特に、デートで手をつなぐ際などに、相手に不快感を与えるのではないかと心配する人も多いのです。

こうした声を受け、手汗を効果的に吸収できる乾燥剤の開発を考えました。知り合いにいる塾の先生からも、「手汗がひどい子どもはノートが破れてしまう」という具体的なお悩みを聞きました。

現在、新商品応援購入プラットフォーム「Makuake」にて先行販売中です。

顧客の潜在ニーズをどのように把握されていくのでしょうか?

今後は、SNSやECサイトを通じて、顧客との接点を増やしていきたいと考えています。顧客自身も自分のニーズを明確に理解しているわけではありません。だからこそ、当社の奇抜な色使いや発想、キャラクターなどを通じて、「こんなのが欲しかった」と思ってもらえるような商品を提供していきたいのです。

「ドライヤーン」を誰もが知るブランドへ

御社の今後のビジョンについてお聞かせください。

当社のビジョンは、自社ブランド「ドライヤーン」のファンを作ることです。

「ドライヤーン」はこれまで当社を支えてきた乾燥剤のパイオニアブランドであるとともに、これからも当社が成長し続けるための土台となる商標です。


そして今後、BtoC向けの商品につきましては、この土台の上に「カラッと+」ブランドとして展開し、生活者に寄り添いながら、より身近な価値を届けていきたいと考えております。


その実現のためには、お客様から「ここは面白い商品を出している」「持っていても格好悪くないし、コンプレックスのある方も使いやすい」と感じていただける、乾燥剤分野におけるリーディングカンパニーになる必要があります。

競合他社との差別化について、どのようにお考えですか?

当社が競合他社と大きく異なるのは、保守的な業界の常識を打ち破り、常に挑戦を続けている点です。

業界の多くの企業が安定的な事業運営を続ける中、当社は時代の変化を捉え、既成概念にとらわれない施策を推進しています。例えば、ホームページをアニメ調に変えたり、乾燥剤としては斬新な色の商品を開発するなどです。

多くの中小企業は「新しい挑戦をしたい」と思っても、社内や世間の目が気になり、実行に移せないことが多いと聞きます。

しかし、当社は「やるなら徹底的に」という姿勢で挑戦を最後まで貫いています。この「突き抜けた実行力」こそが他社との差別化を生み、揺るぎない当社の強みになっていると考えています。

最後に、今後の展望について一言お願いします。

私たちは、ただ乾燥剤を作って販売するだけの会社ではありません。顧客の潜在ニーズを掘り起こし、驚きと喜びを提供する会社でありたいと思っています。

70年間変わらなかった業界だからこそ、当社が変革を起こす必要があります。そして、「ドライヤーン」を誰もが知るブランドにし、若い世代にも愛される会社にしていきたいと考えています。

今後も、社員と一緒に、新しい挑戦を続けていきます。

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COMPANY 企業情報

企業名
山仁薬品株式会社
代表者
関谷 康子
所在地
本社
〒522-0252 滋賀県犬上郡甲良町金屋1260-3
設立
1955年2月24日
事業内容
シリカゲル乾燥剤および関連商品 脱酸素剤・ゼオライト製品・活性炭製品 その他
HP
https://yamani-g.co.jp/

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