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半導体業界の信頼を武器に完成前から発注依頼、CMP装置メーカーの戦略

テラリンクステクノロジー株式会社
専務取締役 岸田 文樹氏
公開日:
2025.09.19
更新日:
2025.09.22

半導体業界30年の経験を生かし、CMP装置で独立

まずは御社の創業経緯と岸田さんのキャリアについて教えてください。

大学卒業後、総合物流会社に2年ほど勤めましたが、半導体業界の将来性を感じ、半導体製造装置メーカーのラップマスターSFT株式会社(当時)に転職しました。ちょうど300ミリシリコンウェーハが大口径化される時代で、CMP装置(Chemical Mechanical Polishing:化学機械研磨)という半導体基板を研磨する装置の需要が急拡大していた時期でした。

ラップマスターはもともと研磨装置の老舗メーカーで、ハードディスク向け装置では圧倒的なシェアを誇っていました。さらに半導体基板向けのCMP装置でも、世界シェアの約8割を獲得していたのです。しかし半導体業界には「シリコンサイクル」と呼ばれる4年に1度の不況があり、ラップマスターも例外ではありませんでした。

ラップマスターでの勤務が5年を過ぎた頃、某上場会社の傘下となり、丁度10年を経過した時点で某上場会社が某社へCMP事業を売却しました。私はその後の新体制で働くより、自分の経験を新たに活かしたいと考え、退職を決意しました。その後、電子部品業界で半導体検査装置事業の立ち上げに参画し、世界トップシェアを獲得するまで成長させました。

その後も研磨装置メーカーで勤務していたのですが、中国で代理店を経営している社長から「一緒にCMP事業を立ち上げませんか」と声をかけられました。資金調達の見込みがあることを条件に、双羽先端半導体株式会社(現テラリンクステクノロジー株式会社)を設立し、起業へと踏み出したのです。

双羽先端半導体株式会社からテラリンクステクノロジーへの変遷について教えてください。

実は、当初は代理店を経営していた知人と共に会社を立ち上げました。その知人の名前には『羽』という字が含まれていたため、社名を『双羽』と名付けたのです。しかし彼は代理店業務で多忙を極め、ほとんど会社に来られない状況でした。そのため、実質的には私が代表権を持つことになりましたが、社長不在では体裁が整わないため、日中交流に携わっていた知人の余東に名義上の代表取締役をお願いしました。
その後、製品開発が進み、三郷にテクニカルセンターを開設する段階で、社名をテラリンクテクノロジー株式会社へと変更しました。

完成前から発注依頼、信頼関係が生んだ奇跡的なスタート

創業時の資金面では、どのような工夫をされたのでしょうか?

創業時の資金調達については、共同創業者である知人が投資家から設計資金を集め、私の給与を含めた当面のランニングコストも確保してくれました。幸いにも、装置が完成する前から海外からの注文が入り、銀行融資に頼らず事業を回すことができたのです。

これは過去30年間にわたって築いてきた業界での信頼関係があったからこそ実現できたことです。お客様が私たちの技術力と実績を信頼して、完成前にも関わらず発注してくださったのです。現在も借金経営は一切行っておらず、健全な財務状況を維持し、3期連続で黒字経営出来ています。

製品開発にはどれくらいの期間がかかったのでしょうか?

設計だけで約1年かかりました。私たちは皆、半導体研磨装置の豊富な知識と経験を持っていましたが、既存製品と同じものを作っても面白くありません。どこを改良するかを検討していると、設計期間が長くなってしまいました。

完成したのは今年2025年の5月から6月頃で、まだ完成したばかりです。装置は横幅2.6m、奥行き3.5m、重量11tという大型で、三郷のテクニカルセンターに全自動の実験機を設置し、ようやくお客様をお呼びしてPRを始めたところです。既に共同実験の秘密保持契約を結んだり、代理店として取り扱いたいという大手企業からの引き合いもいただいています。

競合他社を上回る技術力とプロセスノウハウで差別化

御社はどのような方針で差別化を図られているのでしょうか?

私が在籍していたラップマスターの技術は、現在売却先のホームページに掲載されており、まさにその装置を熟知しています。その上で、さらに性能を上回るためにパテント申請を行い、実際に特許も取得しました。彼らの製品が標準機であるとすれば、それを超える仕様を実現できる技術的優位性を持っています。

ただし、本当の差別化要因は、装置そのものの技術力だけではありません。私たちの最大の強み、つまり差別化につながっているのは「プロセスノウハウ」です。一般的に装置メーカーは、装置を納品した時点で役割を終えることが多いのですが、我々は300ミリウェーハの時代が始まるころ、ほぼすべての半導体メーカーのお客様とともにプロセス開発を進めてきました。

パイロットラインでの試作から量産への移行まで、どうすれば安定して良質な製品をつくれるのか、その答えをお客様とともに試行錯誤しながら積み上げてきた経験があります。この蓄積こそが、単なる装置の提供にとどまらない、真の付加価値だと考えています。

具体的にはどのような技術革新を実現されているのでしょうか?

測定機器への投資も差別化の重要な要素です。例えば、5,000万円を超える測定機器を導入していますが、これを持っている研磨装置メーカーはほとんどありません。多くのメーカーは研磨加工後にお客様に送って測定してもらい、結果が悪ければまた違うレシピで加工するというキャッチボールが発生し、開発が遅くなってしまいます。

しかしこのような測定機器を保有していることで、お客様に来ていただいて加工テストを行い、その場で結果を確認しながらディスカッションができます。これによりプロセス開発期間を大幅に短縮でき、お客様からの評価も非常に高くなっています。

シリコンと化合物半導体の二刀流で業界変動に対応

業界の今後のトレンドと御社の対応戦略について教えてください。

半導体業界は大きく「シリコンウェーハ」と「化合物半導体」の2つに分かれます。シリコンウェーハは単結晶ですが、化合物半導体はSiC(シリコンカーバイド)のように2つ以上の元素が組み合わさったものです。電気自動車(EV)で注目されているのがこの化合物半導体、特にSiCです。

私がいたラップマスターはシリコン業界に特化していましたが、直近の会社は化合物半導体に特化していました。両方の会社から人材を集めているため、私たちは両方の知見を持っています。シリコンが不調な時は化合物半導体、化合物半導体が不調な時はシリコンという形で、二刀流で対応できることが強みです。

現在、三郷にはシリコン向けのデモ機を設置していますが、化合物半導体向けのCMP装置も今月(2025年9月)には完成予定です。お客様をお呼びして実験を行う準備も整っています。YouTubeにも簡易的なデスクトップタイプのCMP装置をアップロードしており、ホームページでもご覧いただけます。

EV市場の変動が御社に与える影響はありますか?

おっしゃる通り、現在のEV市場は非常に厳しい局面を迎えています。ここ数年で世界的に過剰な投資が行われた結果、いまは調整の時期に入っており、その影響は国内の大手企業にも及んでいます。具体的には、早期退職者を募る動きや、海外展開の計画を見直すといった取り組みが広がっている状況です。たとえば、SiC事業を手がける大手企業でさえ、事業をほぼクローズせざるを得ないほどの厳しさに直面しています。

海外に目を向けると、中国市場ではさらに深刻です。各社の競争が熾烈を極め、価格の下落が止まらないほどで、ついには政府が介入し、市場の秩序を守ろうとするほどの事態になっています。こうした流れを受け、SiC業界全体が厳しい環境に置かれているのは紛れもない事実です。

そのような中で、私たちは新たな成長の柱として「受託加工ビジネス」を立ち上げました。装置を自社で購入するほどの投資は難しいが、新しいデバイス開発に挑戦したい――そうしたニーズを持つお客様から、受託加工の依頼をいただいています。日本国内でこの分野を専門に手がける企業はわずか3〜4社程度しか存在せず、希少性の高いビジネスモデルです。市場環境が不安定な中でも、安定的かつ継続的に収益を上げられる可能性を持つ事業として、私たちは大きな期待を寄せています。

借金ゼロ経営の秘訣は、必要最低限への投資

経営者としての成功体験と失敗体験について教えてください。

人材採用においては、これまでに大変苦労した経験があります。たとえば営業担当者を採用しようと募集をかけた際には、20名ほどの応募がありました。その中で「この人ならぜひ一緒に働きたい」と思えるほど優秀な候補者もいたのですが、いずれも年収1,000万円以上を希望していたのです。私たちの会社の規模では、いきなりそこまでの報酬を提示するのは現実的に難しく、当時の見込みの甘さを強く反省しました。

近年、どの業界でも人材不足が叫ばれていますが、特に優秀な人材となると、大手企業が高い報酬や待遇を提示して積極的に引き抜いてしまう傾向があります。その結果、中小企業が欲しい人材を確保するのは容易ではなく、採用の難しさを改めて痛感しました。私自身もこの経験を通じて、単に条件だけで競うのではなく、自社ならではの魅力や働く環境をどう伝えるかがますます重要になっていると感じています。

地域密着型の家族経営を目指して

今後の会社のビジョンについて教えてください。

上場は全く目指していません。むしろ従業員とその家族も含めて、皆が幸せになれる家族経営のような会社にしたいと考えています。お客様にとってもメリットがあり、三方よしの関係を築くことが理想です。

技術面では常に技術革新を続け、特許も継続的に出願しています。「Open Innovation Company」として常に新しい技術の開発に取り組んでいます。

お客様への提供価値で重視していることはありますか?

多くのメーカーは「標準仕様なら対応するが、カスタマイズは嫌がる」という姿勢です。しかし私たちは、カスタマイズ対応を積極的に行っています。装置メーカーの数も減少しており、生き残りをかけて利益重視になりがちです。しかし私たちは過去の経験と実績があるからこそ、お客様のニーズに柔軟に対応できます。お客様が本当に求めている仕様を実現することで、市場での差別化を図っています。

最後に、現在求めているパートナーシップや協業について教えてください。

現在、ありがたいことに大手企業から「代理店として御社の製品を取り扱いたい」といったお問い合わせをいただいています。これは、私たちが長年培ってきた技術力に対して評価をいただいている証でもあり、大変光栄に感じています。技術に自信があるからこそ、ぜひ多くのお客様に安心してお取引をご検討いただければと思っています。

また、三郷テクニカルセンターでは、実際に装置をご覧いただきながらのご説明や、デモンストレーションもご用意しています。現場で直接触れていただくことで、カタログや資料だけでは伝わらない価値を感じていただけるはずです。ご興味をお持ちの方は、ぜひお気軽にお問い合わせいただければと思います。

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COMPANY 企業情報

企業名
テラリンクステクノロジー株式会社
代表者
岸田 文樹
所在地
(本社)
〒261-8501 千葉県千葉市美浜区中瀬1-3 幕張テクノガーデン CB棟3階 MBP
(三郷テクニカルセンター)
〒341-0034 埼玉県三郷市新和5-122-2
設立
2022年8月
事業内容
シリコンウェーハ用研磨装置の開発・設計・製造・販売
化合物半導体ウェーハ用研磨装置の開発・設計・製造・販売
研究開発用研磨装置の開発・設計・製造・販売
ウェーハマウンターの開発・設計・製造・販売
受託研磨加工
受託測定
各種研磨消耗材の販売
HP
https://terralinks.jp/

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