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建設現場の「本当の人材不足」に向き合うグループ戦略
まず、ナレルグループの事業概要を教えてください。
私たち株式会社ナレルグループは、純粋持株会社であり、建設業界に特化した人材派遣サービスを展開する、株式会社ワールドコーポレーションを中核に持っています。ワールドコーポレーションの子会社として株式会社コントラフトと一般社団法人全国建設人材協会も擁しており、それぞれが建設業界の人材課題に対して異なるアプローチで向き合っています。
グループの中で特にユニークな存在として、全国建設人材協会があると伺いました。
はい。日本の法律上、建設技能者(職人)の人材紹介は原則禁止されています。しかしこの協会が「建設業務有料職業紹介事業許可」を保有していることで、私たちは建設職人の人材紹介を唯一合法的に行える体制を整えているのです。
建設業界の人材不足が深刻化する中、施工管理者の派遣だけでなく、現場で手を動かす職人の供給まで一体的にカバーできる会社は、国内でも他にありません。採用から定着、そして職人の確保まで、建設業界の人材課題をグループ全体でワンストップに解決できることが、私たちの最大の強みです。
柴田社長ご自身は、どのような経緯でこの業界に入られたのですか。
新卒で同業企業に入社し、建設・建築現場への派遣営業を担い、その後は光通信に在籍しました。そして2011年5月、ワールドコーポレーションに入社し、今年でちょうど16年になります。当時の売上は2億~3億円ほどで、立ち上がったばかりのベンチャー企業でした。それがここまで成長できたことは、感慨深いものがあります。
建設業界の人手不足に対して、「未経験」で解決
建設業界の人材不足は広く知られていますが、柴田社長から見て、問題の本質はどこにあるとお考えですか。
一般的に注目されるのは施工管理者の不足ですが、より深刻なのは実際に現場でモノをつくる「職人」の絶対的な不足です。過去20~30年の間、建設業界全体として担い手の確保と育成に十分に向き合えてきませんでした。国も企業も、体力的・構造的な問題からそこに投資しきれなかった時代が長く続いたのです。その歪みが今、一気に噴き出しています。
柴田社長自身も、長くその問題に向き合ってこられたのですね。
施工管理人材の不足と、職人の不足の2つの課題について、まずは施工管理人材の課題解決に取り組みました。私は、業界未経験者の採用がまだ今ほど一般化していなかった時代から、この未経験人材に着目し、多くの業界未経験の施工管理人材を建設現場に送り出してきた経験があります。その上で、職人の不足に対しては、前述の通り、全国建設人材協会の職人紹介サービスを通じて、業界未経験の方を職人として建設現場へ送り出しております。
そうした積み重ねの中で見えてきたのは、採用の難しさよりもむしろ定着の難しさです。転職が当たり前になった時代の中で、せっかく採用してもすぐ離れていってしまう。その問題を真剣に考え続けてきたからこそ、今の私たちのサービスがあります。
採用・定着の難しさに対して、御社はどのようなアプローチで向き合っているのですか。
単に人材を配置するだけでなく、お客様である建設会社が「その人材を活かせる環境かどうか」という視点まで含めて支援することが重要だと考えています。
どれだけ優秀な人材を紹介しても、受け入れる側の環境が整っていなければ定着しません。私たちは長年の経験から培った業界の知見をもとに、採用後のフォローや職場環境づくりのアドバイスまで踏み込んだサポートを行っています。
それが、私たちのサービスが単なる人材派遣にとどまらない理由でもあります。
お金がないから、知恵を絞った。ベンチャー時代が鍛えてくれたもの
2億~3億円規模のベンチャーから現在の規模まで成長する過程で、最も苦労されたことは何でしたか。
1番のジレンマは、「やりたいことにお金が使えない」という現実との戦いでした。それまで在籍していた会社は上場企業でしたので、予算の制約をそれほど意識したことが有りませんでした。
ところが30歳を超えてこの会社に入ると、採用1つとっても予算が厳しい。人を採用したくてもお金がない、という状況が何年も続きました。最初は大変焦りましたが、次第に「ないなら、どうやって工夫するか」という思考に変わっていったのです。
具体的にはどのように工夫されたのですか。
「安くて効果的に未経験を採用できる方法はないか」と真剣に考え抜くようになりました。コストをかけずに求職者に届く方法、魅力を伝える方法を試行錯誤する日々でした。今振り返ってみると、厳しい環境に身を置いたあの時が、自分を最も成長させてくれた時期だったと思います。
豊富なリソースがあれば力はつかない。制約の中でこそ、本当の知恵が磨かれるということを、体で学ばせてもらいました。
その経験が、今の経営スタイルにも活きているのでしょうか。
そう思います。今でも「コストをかければ解決する」という発想よりも、「どうすれば少ない資源で最大の効果を出せるか」を先に考える癖がついています。
組織が大きくなるほど、お金を使えば何でも解決できるような錯覚に陥りやすい。でも本当に強い組織というのは、知恵と工夫で動ける人間の集まりだと思っています。あのベンチャー時代の苦労が、そういう土台を作ってくれたのだと感じています。
組織の成長とともに生まれた「経営者としての新たな悩み」

会社が大きくなるにつれて、逆に難しくなってきたことはありますか。
ベンチャー時代は、若手といえば今の中核を担うようなメンバーたちのことでした。人数が少なかったので1人ひとりに目が行き届いており、仕事を通じた思考のトレーニング、自ら行う研修、食事を共にしながらの対話など、じっくり向き合うことが自然にできていました。彼らの考え方や成長を間近で感じながら経営できていた、という実感がありました。
組織が大きくなると、その関わり方も変わってきますか。
組織が成熟するにつれて、そのような目配りがどうしても行き届かなくなってきます。1人ひとりと深く向き合う時間が取れなくなっていくことは、経営者として今も率直にストレスを感じている部分です。
管理職層を通じた間接的なコミュニケーションに移行せざるを得ない中で、自分の思いや文化をどう伝えていくか。これは成長企業が必ず直面する問いであり、私自身が今まさに模索している課題です。
それでも、組織として大切にしていることはありますか。
「人を育てる」という姿勢だけは、規模が変わっても変えてはいけないと思っています。やり方は変わっても、経営者として人の成長に向き合い続けることが、会社の文化をつくる。ベンチャー時代に自分がそうしてもらったように、今度は組織全体でその空気を受け継いでいく仕組みをどう作るかが、これからの私の大きなテーマです。
人口減少時代の生存戦略。「人材とテクノロジーの融合」へ
業界全体として、今後どのような変化が起きていくとお考えですか。
人口減少という構造的な問題の中で、「大量に採用しても一定数は辞めていく」という従来の人材派遣モデルは、もう成立しなくなってきています。採用できる人の数には限りがあり、定着率も一定ラインで留まる。つまり今のやり方のままで規模を伸ばし続けることには、どこかで限界が来るはずです。
この現実から目を背けずに向き合うことが、業界全体に求められていると感じています。
その変化に対して、御社はどのような方向性で対応されていますか。
私たちが掲げているのは「人材とテクノロジーの融合」です。これまで蓄積してきた技術者の知見やノウハウを、デジタルの力と掛け合わせることで、1人当たりの付加価値を高め、単価向上につなげていく。そのための取り組みとして、建設ICTや建設DXと呼ばれる分野に注力しています。
具体的には、どのような形でお客様に提供していくのでしょうか。
まだまだDX化が遅れている建設現場に対して、私たちの人材と組み合わせながらデジタルツールを浸透させていく取り組みです。ポイントは、ツールだけを導入するのではなく、現場をよく知る私たちがお客様と一緒に課題を聞き、提案し、定着させていく点にあります。建設業界の内側をよく知っているからこそできる、ソリューション型のアプローチです。
M&Aのキーワードは「高付加価値/専門性」
成長戦略の一環として、M&Aもお考えですか。
オーガニックな成長はもちろん必要ですが、経営戦略の一環としてM&Aは常に視野に入れています。同じような事業を展開している人材派遣会社のM&Aも当然対象になりますが、それ以外の分野のM&Aも関心があります。
では、M&Aで関心を持っている分野はどのようなところですか。
私が関心を持っているのは、M&Aによって我々の事業価値が向上したり、専門性が高まったりするような企業で、M&Aによって同業との差別化を実現したいと考えております。例えば、特定の工種や工法に特化した人材を抱えていたり、建設現場の生産性改善を実現できるDXツールを保有していたり、その領域で圧倒的な強みを持っており、抽象的ですが当社の人材に付加価値を与えてくれるような会社となります。
規模よりも深さ、汎用性よりも専門性という軸で考えたときに、私たちの戦略と重なる会社であれば、掛け合わせることで新たな価値が生まれると思っています。
上場は通過点。「単なる派遣会社」からの脱却を目指す
昨年12月に初めて中期経営計画を発表されましたが、どのような方向性を示されたのですか。
数値目標ももちろん大切ですが、私が最も伝えたかったのは数字の背後にある方向性です。5年後、10年後を見据えたとき、人材派遣サービスという業態そのものが大きく変容していく。その変化の波に乗れるかどうかが、企業としての生死を分けると考えています。毎月100~200人を採用し続けても、定着率が一定である以上、規模の拡大には必ず限界がきます。そこで大切なのは量ではなく、1人ひとりの付加価値を高めて、選ばれる企業になることです。
規模の拡大よりも付加価値を高めるという方向性は、会社の中でどのように浸透させているのですか。
正直に言えば、これは今まさに取り組んでいる途中の課題です。長年「採用数を伸ばす」ことを成長の軸としてきた組織に、「付加価値で勝負する」という発想を根づかせるのは、容易ではありません。人の意識や文化は、一朝一夕には変わらない。だからこそ中期経営計画という形で社内外に方向性を明示し、経営としてのコミットメントを示すことが重要だと考えました。
10年後、ナレルグループはどのような会社になっていたいですか。
「あの会社に頼めば、施工管理も職人も、また建設現場の人手不足や生産性を何とかしてくれる」と認知される存在になっていたい。「単なる派遣会社」という枠を超えて、建設業界全体の課題解決パートナーとしての地位を確立すること。それが私たちの目指す姿です。上場はその通過点に過ぎません。本当の意味での成長は、これからです。
建設DXの最前線を、共に切り拓く仲間を求めて
最後に、現在求めている人材についてお聞かせください。
現場で活躍してくれる施工管理者ももちろん必要です。ただ、これからの会社の進化を考えると、既存事業の枠を超えた変化に面白さを感じてくれる人材が特に重要になってきます。お客様のところに出向いて人材や建設DXのツールを提案し、悩みを一緒に解決していくような、ソリューション型の仕事ができる方です。
どのようなマインドを持った方と一緒に働きたいとお考えですか。
「派遣する会社」から「課題解決できる会社」への転換期を、一緒に面白がって走れる方と出会いたいです。上場まで達成できた会社が、さらに新しい方法で業界に根を張り、強くなっていく。
そのプロセスに興味を持ち、自分もその一翼を担いたいと思える方であれば、私たちとの相性はきっと良いはずです。建設現場の生産性向上というまだ誰も答えを出し切っていないフロンティアで、人材と建設DXを強みに、一緒に挑戦していただける仲間を広く求めています。





