株式会社ニット・ウィン|代表取締役 西口 功人 氏

海外事業成功の秘密とは?株式会社ニット・ウィンの真髄に迫る

株式会社ニット・ウィン
代表取締役
西口 功人氏

幼少期の夢とワーキングホリデーでの経験



西口さんの幼少期の環境や、当時の夢について教えてください。

私は奈良県で生まれ育ち、幼い頃から家業の工場が身近にありました。
祖父が靴下工場を創業し、機械が動く音が日常に溶け込んでいたため、自然と仕事を意識する環境でした。ただ、子どもの頃は美容師に憧れていました。
当時は美容業界が盛り上がり、カリスマ美容師が注目を集めていた時代だったため、自ずとそちらに憧れを持っていたんです。
美容室には予約の時間を過ぎても客が並び、華やかな雰囲気が広がっていたのを覚えています。その姿がとても魅力的に映り、自分もその世界に入りたいと考えていたのです。


進学後に考えが変わったとのことですが、どのようなきっかけがあったのでしょうか?

関西学院大学に進学して、マーケティングを学ぶ中で、ただ決められた道を進むだけでは成長できないと感じたことがきっかけでした。
新しい経験を積むため、1年間の在学後に休学し、19歳でワーキングホリデーに挑戦しました。当時、若い年齢で海外に渡る人は少なく、不安もあったものの、未知の環境に飛び込む強い覚悟で挑戦したことを今でも思い出します。
カナダではバンクーバーを拠点に、ロッキー山脈のリゾートホテルで働きました。
最初は英語がほとんど話せず、ハウスキーパーとして部屋の清掃や荷物の管理を担当していましたが、その後、少しずつ英語にも慣れてきて接客の仕事に携わる機会も増え、半年後にはトロントへ移動しました。
しかし、当時流行していたSARSの影響により現地の経済は大きく落ち込んでおり、仕事を探すのが非常に難しい状況でした。
働き口を探すことがとにかく困難な状況で、自分の力だけではどうにもならない厳しい現実を突きつけられましたね。
ただ、視点を変えるとこの時、新しい環境に適応しながら生き抜く力を磨く機会にもなっていたのだなと感じます。この経験を通じて、困難な状況でも道を切り開くための工夫や行動の重要性を学びました。

社会人での苦しい経験が今につながっている

社会人での苦しい経験が今につながっている
大学に戻られてからの進路選択についてお聞かせください。

カナダでのワーキングホリデーを終え、大学に戻ってからはブランドマネジメントを深く学び、マーケティングの重要性を改めて実感することになりました。在学中から将来について真剣に考え、企業で経験を積む必要があると考えるようになりました。
就職活動では、商社やメーカーなどを志望し、外資系大手日用品メーカー、大手日用品メーカーなどを受けました。商社にも関心がありましたが、面接が進むにつれてメーカーの仕事に強く惹かれるようになっていたんです。
志望していた外資系大手日用品メーカーは筆記試験で不採用となり、商社の最終面接も突破できず、厳しい現実を痛感した一方で、大手日用品メーカーの採用試験では好感触を得られ、最終面接の帰り道に内定の連絡をもらい、ブランドマネジメントを重視する企業であれば、自分の学びを活かせると考え、入社を決めました。


そうだったんですね。大学時代の専攻を考えると、配属部署はマーケティング部門だと思ってしまうのですが、こちらはいかがでしたか?

いえ、最初に配属されたのは営業部門で、主に売上規模の小さい小売店を担当していました。新卒入社なので、もちろん右も左も分からない状況ということで、仕事に苦戦する日々が続きましたが、試行錯誤を重ねながら、クライアントへとにかく提案を続ける毎日を送っていましたね。
しかし、同期の中にはすぐに成果を上げる人も多く、比較される場面が増えていったのも覚えています。

2年目には問屋のサポート業務を任され、より広い視野で営業に携わるようになり、3年目には念願の大手問屋の担当に抜擢され、売上の約40%を任されることになりました。
これまでの経験を活かし、取引先との関係を深めながら営業施策の立案や調整に関わる機会がどんどん増えていきました。この時期に培った交渉力や分析力が、後のキャリアに大きな影響を与えたなと、当時を振り返ると強く感じます。

ブランド立ち上げの背景

ブランド立ち上げの背景
独自ブランドの立ち上げに至った経緯を教えてください。

私は株式会社ニット・ウィンの3代目になりますが、初代が1950年に創業し、2代目がより大きくしてきた中で、現在自社ブランドの展開にあたり、定番商品を軸に据える方針を決めました。
理由としては、市場には流行を取り入れた靴下が多く出回っていますが、長く愛用できる品質の高いものを目指し、トレンドに左右されないアイテムを中心にしながらも、ブランドとしての個性を打ち出すことが重要だと考えたからです。
具体的な方針として、ファッション性の強いデザインはOEMとして商品供給をしているので、自社ブランドではクラシックなスタイルを重視していくことにしました。お客様にとって製品が単なる消耗品ではなく、品質とデザインの両面で選ばれるブランドにすることが必要だと思っているからです。靴下をファッションアクセサリーの一部として考え、コーディネートに取り入れやすいアイテムにしていく方針で取り組んでいます。


ブランド展開において、どのような課題がありましたか?

多くの取引先から共感をいただけたのですが、一部の企業からの反発があったことですね。
例えば、自社ブランドの展開がOEMの取引に影響を与える場合を懸念して、結果的に取引を打ち切ったケースがあったりしました。ブランドの価値を理解していただけて、長期的に協力し合える取引先との関係を深めることを優先して判断をしたということになります。
また、市場における競争力についても、分析した上で取り組んでいます。
靴下業界では低価格帯の商品が主流ですが、品質やデザインにこだわるブランドとして、どのような立ち位置を築くべきかを慎重に検討していきました。その結果、クラシックで上質な靴下を求める層に向けた発信を強化し、価格競争を避けながらブランド価値を高める方向へと舵を切り、市場での存在感を強めていくべく進んでいます。

ブランディングと戦略的展開

ブランディングと戦略的展開
御社のブランディング戦略について教えてください。

自社ブランドの成長には、ブランディングが欠かせないので、市場で確かな価値を築き、長く支持されるためには、単なる商品の開発にとどまらず、ブランドの管理と戦略的な展開が必要だと考えます。
そのため、定番商品を軸にしつつ、品質とデザインの両面で信頼を得られるよう取り組んできました。
例えば、デザインチームとは綿密に連携を取り、見た目の良さだけに頼らないものづくりを進めており、独自のスタイルを打ち出しながらも、品質や機能性を大切にし、バランスを意識しながら開発を行っています。
売上の比率もかつてはOEMが中心でしたが、自社ブランドの成長により逆転し、現在では自社ブランドが55%、OEMが45%という比率になりました。
コロナ禍では、外出機会の減少によりファッション関連の売上が落ちましたが、一方でオンライン需要が拡大した影響もあり、自社ブランドの販売は好調に推移し、継続的な成長につながっています。
ここで意識している点としては、自社ブランドのみを追求するのではなく、OEMとのバランスを取りながら安定した経営を目指しているということですね。

海外展開の取り組みと成果

海外展開の取り組みと成果
海外事業にも積極的だとお伺いしております。

海外市場への参入は、国内市場の縮小を見据えた戦略の一環で、人口減少が進む中、国内だけでは成長を維持するのが難しく、海外展開を視野に入れる必要があると考えていたため、戦略的に参入を検討していました。
まずオーストラリアに進出し、現地バイヤーとの商談を重ねながら販路を拡大していきました。その後、パリやニューヨークにも進出し、展示会への出展を通じてブランドの認知度を高めていく施策を行いました。
その結果、オーストラリアでは、現地のセレクトショップと連携しながら販売を開始することとなり、ブランドの価値を理解するバイヤーとの関係を築きながら、少しずつ販路を広げていくことに成功しました。
パリでは、展示会を利用して市場調査を進め、ニューヨークでは北米市場への認知拡大を目指して消費者ニーズを分析し、それぞれに合った販売戦略を展開しています。
ただ、コロナ禍では海外展示会の開催が難しくなり、対面での商談の機会が激減してしまいました。そのタイミングでインスタグラムを利用した情報発信を強化したところ、海外バイヤーからの問い合わせが急増しました。この問い合わせをきっかけにオンラインを通じた商談が進み、新たな取引先とのつながりが生まれていきました。
海外での成功につながった要因のひとつは、「ブランドの一貫性」と「高品質な商品」だと考えます。それは価格競争ではなく、デザインや機能性を重視するバイヤーに評価されることで、継続的な取引へと発展していくからです。現在も海外のセレクトショップやコンセプトストアとの取引を広げ、新たな市場の開拓を進めている状況となります。

変化を恐れずに挑戦する経営方針

変化を恐れずに挑戦する経営方針
現在の靴下業界について、どう分析していますか?

靴下業界では、価格競争が激化し、多くのメーカーが価格競争に巻き込まれて厳しい状況になっています。日本国内での生産割合は年々減少し、中国をはじめとした海外製品が市場の大半を占める状況になりました。そうした中で、自社は他のメーカーとは異なる戦略を取っています。
国内市場の特性を踏まえ、品質とデザインの両面にこだわりながら価値を高める方針を掲げました。大量生産ではなく、長く使える靴下を作り、ファッション性と実用性を兼ね備えたブランドとしての存在感を強めています。低価格な商品が多い市場の中で、高品質なものを求める層に向けた展開を強化しました。
私は「変化を恐れず、挑戦を続ける姿勢」を大切にしています。
新たな市場を開拓する際も、リスクを避けるのではなく、前向きに取り組むことで道を切り開いてきました。海外展開もその一環です。
経営においてはスピード感を重視し、意思決定の遅れを防いでいます。
市場環境は日々急速に変化しており、対応が遅れると機会を逃すことになるからです。
決断すべき場面では即座に行動し、素早く実行に移すことで競争力を維持してきてきました。先を見据えながら、新たな挑戦を続ける姿勢が成長につながると考えています。

変化を続ける市場への挑戦

今後の展望について教えてください。

今後の市場を考えるうえで、日本国内の消費動向は無視できないですね。
少子高齢化が進み、国内需要の縮小は避けられない状況にある中でどのように成長していくかを考えると、何度も話題に挙げている、海外市場の開拓をさらに強化していくことにつながります。
現状、取引のある国以外でも、積極的にブランド価値を広める計画を進めています。
加えて、EC販売やデジタルマーケティングの利用にも力を入れ、海外はもちろん日本国内の方々に向けてブランドの魅力を伝えていく考えです。
変化を恐れず挑戦を続け、ブランドのさらなる発展を目指して、今後も邁進していきたいと思います。

COMPANY INFO会社情報

企業名
株式会社ニット・ウィン
代表者
西口 功人
所在地
奈良県葛城市木戸195-7
設立
1950年5月
事業内容
シルク、ウール、コットン、リネン等の天然繊維を主軸とした靴下・ニット製品のOEM製造及び自社ブランド商品の製造、販売
ホームページ
https://knitwin.com/