1. トップ
  2. 金属加工業の未来を拓く「IBUKI」ブランド|事業承継とトヨタ経験を経て挑む新たな挑戦

金属加工業の未来を拓く「IBUKI」ブランド|事業承継とトヨタ経験を経て挑む新たな挑戦

有限会社ネットワーク社
代表取締役社長 垣内 悠輔氏
公開日:
2026.01.14
更新日:
2026.01.19

トヨタでの経験と事業承継の決断

まず、垣内さんのご経歴からお伺いできますでしょうか。

幼稚園から大学までずっとラグビーに打ち込んでおり、社会人でもラグビーを続けるか迷いましたが、ビジネスの世界で自分を試したいという想いが強くなりました。当時は家業(=㈲ネットワーク社および親会社の㈱垣内螺子商会)を継ぐことは考えておらず、どうせやるならトップ企業でどこまで通用するか勝負したいと考え、トヨタ自動車に入社することを決めました。

トヨタではどのような経験がございましたか。

トヨタでは人事労務の仕事を6年間担当させていただきました。工場と本社の両方で人事を経験し、採用業務から労務管理まで幅広く携わりました。ありがたいことに、トヨタの中でもやっていけるという感覚を持てるようになり、周囲からも評価していただけるようになりました。

一方で、中枢に近い業務に関わったことで、大企業ならではの側面も見えるようになり、このままサラリーマンとして順調に進んでも、ある程度先のイメージがついてしまう部分もありました。

有限会社ネットワーク社と親会社の関係について教えていただけますか。

現在私が代表を務めている㈲ネットワーク社には、㈱垣内螺子商会という親会社があります。この垣内螺子商会は私の祖父が創業し、現在は父が代表を務め、私も役員を兼任しています。

ネットワーク社は1989年に創業された会社で、もともと垣内螺子商会とは資本関係はありませんでした。男性1名と女性2名という小さな会社でしたが、創業者が業界大手の出身だったこともあり、全国に顧客を持ち、特殊部品を扱う専門性の高い企業でした。30年ほど事業を続けてきましたが、創業者に後継者がいないという問題が浮上し、2015年頃に事業承継の話が持ち上がりました。

事業承継の話が出た時、ご家族でどのような話し合いをされたのですか。

父もどうするべきか2年ほど悩み、2017年に最終的に垣内螺子商会がネットワーク社を子会社化する形で事業承継を行いました。M&Aを決めた際、初めて家族全員で話し合いました。父から「継いでくれる人はいないか」と話がありましたが、その場で私は「まだすぐには決められない」と正直に伝えました。当時トヨタに入社してまだ3年ほどでしたし、辞めるにしても自分なりに成果を残してからにしたいという想いがあったからです。

ただ、その話し合いで、もし誰かが継ぐとしたら自分が継ぐという方向性が定まりました。

最終的に継ぐ決断をされたきっかけは何だったのでしょうか。

大企業での仕事の素晴らしさを実感する一方で、父の働き方を見ていて考えさせられることがありました。父は中小企業の経営者ですが、60歳を過ぎてもまだまだ現役バリバリで働いています。

自分がどういう生き方をしたいのか。トヨタで順調に昇進していけた場合のキャリアと、後継者がいるのに誰も継がずに廃業してしまう会社、どちらが後悔しないのか。そういったことを何度も自問しました。

その結果、どのような結論に至ったのですか。

サラリーマンとして働き続けるよりも、自分次第で全てが変わる環境で、上を目指し続ける生き方の方が、長い人生を考えたときに面白いと感じました。それで2021年、コロナ禍が続く中で事業を継ぐ決断をしました。翌年には弟も戻ってきてくれて、現在は専務として一緒に会社を経営しています。

特殊部品専門商社から自社ブランドへ

ネットワーク社の事業内容について教えてください。

当社は特注部品の専門商社という位置づけです。既製品を扱うのではなく、お客様から図面をいただき、それをどの工場でどのように作るかをコーディネートします。プレス加工、切削加工、熱処理など、様々な工程を全国の協力工場様に振り分けながら製品を完成させていくといった流れです。

2024年8月には、長年お世話になっていた協力先のネジ製造工場を事業承継しました。当該工場の廃業に際して、長年培われてきた職人の技術と雇用を守りたいという想いから、機械を買い取り、事業だけを承継する形となりました。現在は、専門商社としての機能に加え、ネジ製造という自社工場も持つ体制になっています。

自社ブランド「IBUKI」が切り拓く新たな道

2024年12月1日に自社ブランド「IBUKI」を立ち上げられたとのことですが、どのような経緯だったのでしょうか。

元々は、金属加工業に興味があったというよりも、どういう生き方がしたいかに向き合い家業を継ぐ決心をしましたが、全国の協力工場様と仕事をする中で、職人さんたちの技術の高さ、ものづくりへの情熱に触れ、深いリスペクトを持つようになりました。

しかし一方で、金属加工業は世の中にほとんど知られていません。例えば、「車」は金属加工業の結集であり、日本のモノづくりの代表格ですが、一般消費者は「トヨタの車」としか認識していません。実際に部品を作っているのは小さな町工場で、高い精度を求められながら厳しい競争にさらされています。

なぜ金属加工業は認知されにくいのでしょうか。

サプライチェーンの構造上、メーカーはティア1、ティア2あたりまでは開示していても、その先の町工場は表に出ません。秘密保持契約もあり、どの工場が何を作っているかは言えないことが多いのが業界の常識です。だからこそ、技術があっても金属加工業という産業への認知が上がらない構造になっています。廃業や倒産が相次ぐ中で、このままでは日本のものづくりの源泉がどんどん弱くなっていくという危機感がありました。そこで立ち上げたのが「IBUKI」です。

「IBUKI」のコンセプトを教えてください。

「SHARE THE STORY」がブランドコンセプトです。金属加工業を営む工場を開示し、商品だけでなく商品の裏側を、プロダクトを通じて一般消費者に知っていただくことを目指しています。

普段は「ネットワーク社に相談すれば形になって出てくるが、どの工場で作るかは言わない」というのが私達の付加価値の部分でもあります。今回は自分たちの手の内を明かすことになるため、非常にリスクの高い挑戦です。しかし、それを気にしていたら先には進めません。工場との信頼関係があれば、たとえ工場情報を開示したことで弊社を、飛び越えて商売道徳に反するお客様がいたとしてもそういったお客様とはビジネスが長続きしないでしょう。開示するからこそ、金属加工という産業そのものにスポットライトを当てることができると考えました。

具体的にどのような仕組みなのでしょうか。

ECサイト上で、商品ごとに動画や映像、写真を使って、なぜこの商品を作ることにしたのか、どの工場が関わったのか、どんな技術が使われているのかをすべて開示しています。販売先や関わった人たちも公開し、つながりを可視化する仕組みです。IBUKIが周知されるたびに、参画していただいた工場の裏側が見られ、必然的に金属加工という産業が一般消費者に伝わる構造を作りました。

実際にどのような商品を展開されていますか。

例えば、金属製のコースターがあります。一般的には研磨加工をするところを、あえて研磨せずに仕上げることで、工場の旋盤加工の技術をデザインとして昇華させています。ステンレス製でサビにくく、企業や店舗のロゴを刻印することもでき、記念品としても活用いただけます。また、1個から対応しています。

材質もステンレスに限らず、アルミなど様々な素材で展開しています。商社という立場なので、自社工場の設備に制約されず、作りたいものに応じて最適な協力工場様を選べるのが強みです。

それにはどういった技術が活かされているのでしょうか。

普段は、半導体装置や医療機器の部品など、非常にシビアな精度が求められる産業用部品を扱っています。各分野で本当に技術力の高い工場とお取引しており、ミクロン単位で戦っているような企業ばかりです。その技術を一般消費者が手に取れる商品に持っていきたいのです。使う場所を変えるだけで、これまで触れることのできなかった高度な技術に触れられる機会を作りたいと考えています。

「本物志向」の時代に伝える価値

情報も物もあふれている現代において、「IBUKI」はどのような価値を提供するのでしょうか。

今は裏側のストーリーや価値に目を向けられる時代だと思っています。コースター一つとっても、世の中には無数の選択肢があります。でも、どれを買うかを決めるときに、このコースターのすごさをちゃんと可視化し、言語化することで、「同じ金額ならこっちを買おう」「多少高くてもこっちがいい」と思っていただける。本物志向、意味消費、コト消費の時代において、裏側の価値を伝えることが差別化につながると考えています。

業界全体への影響についてはどのようにお考えですか。

金属加工業は日本の産業を支えているにもかかわらず、ほとんど知られていません。それを、プロダクトを通じて世の中に周知させることで、「親父が金属加工をやっていたけど、ちょっと自分もやってみようかな」とか、「こんな町工場があるなら継いでみようかな」という小さな火種を作れるかもしれません。

廃業対策コンサルやM&Aも一つの手段ですが、それらを私たちが主導してやるのではありません。IBUKIに参画していただいている工場は、みな技術力が高く、本業が忙しい企業ばかりです。あくまでもプロダクトを通じて金属加工の裏側を知っていただき、それが間接的に広がったときに、業界が認知されている状態を目指しています。

業界トレンドと生き残り戦略

金属加工業界のトレンドと御社の戦略について教えてください。

部品商社という業界で考えると、淘汰が進んでいくと思います。ユーザーが工場と直接取引を増やしている中で、商社が介在する意味が薄くなってきています。付加価値を出せない商社は、今後生き残っていけないでしょう。

付加価値をどう出すかには様々な切り口があります。一つは、他社にはできない商品を作る能力です。複数の工程が必要な複雑な部品や、特殊な加工ができる工場を知っているというネットワーク社の強みでもあります。もう一つは、自社工場という観点です。ネジ製造は職人技の世界で、廃業が相次いでいます。技術を正しく承継すれば、5年後にはさらに需要が集まり、事業を拡大できる可能性があります。

業界からの反応はいかがですか。

今回、自社ブランドを立ち上げたことで、業界の方々から「新しいことをやっていてすごい」と言われることが増えました。製造業はどうしても下請け的な要素が強く、上に追従していく傾向があります。そこから脱却し、自分たちで市場環境に左右されない事業を確立することが、今後生き残っていくために重要だと考えています。

悔しさをバネに、業界の未来を切り拓く

トヨタ時代の経験が今に活きていることはありますか。

仕事の進め方や本質的な考え方等、全て今の仕事に活きています。中小企業を経営していくにあたり、トヨタ人事で経験を積ませていただいたことは、強みの一つだと思っています。

トヨタは日本で最も大きな企業の一つですが、事業を継いで1週間経った頃に、あるお客様から言われた言葉が忘れられません。「お前らみたいな小さい会社は、俺らみたいな大きい会社にくっついてろ」と。

当時は強い憤りを感じましたが、今ではその言葉に感謝しています。こういう見方をする人たちを見返してやりたいという想いが、IBUKIを立ち上げた原動力の一つになっています。金属加工へのリスペクトや業界の未来を考える理由は他にもたくさんありますが、根底にはそうした悔しさもあります。

今後の展開についてお聞かせください。

2025年12月1日にローンチしたばかりなので、これからいかに周知していくかが次のステップです。商品自体の魅力を高めることはもちろん、金属加工という産業そのものを知っていただくための情報発信にも力を入れていきます。

IBUKIを通じて、日本のものづくりの素晴らしさ、町工場の職人技に触れていただける機会を増やしていきたいです。そしてゆくゆくは、金属加工業という産業が当たり前のように認知され、若い世代が「金属加工の仕事、格好いいな」と思える未来を作りたいと考えています。

CONTACT お問い合わせ

こちら会社にご相談(ご連携)されたい方は、BIZPREPまでお問合せください

CONTACT

COMPANY 企業情報

企業名
有限会社ネットワーク社
代表者
垣内 悠輔
所在地
〒578-0982 大阪府東大阪市吉田本町1丁目2番40号
設立
1991年
事業内容
オーダーメイドを中心とした各種締結部品の製作・販売
HP
https://network-corp.jp/

一覧へ戻る