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不動産業界から古民家再生へ──ビジネス転換と苦悩の舞台裏
ーーまず、社長の経歴をお伺いしてもよろしいでしょうか。
僕は高校卒業して東京電力に入社しまして、東京電力で10年働いていました。
当初、東日本大震災があって、そのときに福島原発のところが津波で影響を受けて…
僕は東京の営業店にいたのですが、やっぱりその影響で、「このまま東京電力にいるのか、辞めて何か新しいことをするのか。」ということで迷っていました。
当時28〜9歳くらいで、30歳を超えてしまうと、なかなか転職というのも厳しいだろうと思ったのと、まだ独身だったこともあり、転職を決断しました。
どの業界へ転職しようかと考えたとき、特にスキルもなかったので、東京電力でもやっていた営業しかできないだろうなと考えました。なかでも、不動産営業であれば、自分のやる気というか、自分次第でなんとかなるんじゃないかと思い、不動産業に行こうかなと思いました。
それで転職した先が、東証の不動産の販売をしている会社でした。
10年ほど勤務したあとに、2019年の1月に株式会社ネクスウィルを設立して、今に至るというような形です。
不動産自体は、2011年〜12年くらいからやっているので、もう14〜5年くらいやっているような状況です。

ーー投資用不動産の販売から古民家ビジネスへ転換されたきっかけは何ですか?
最初のきっかけとしては、うちの顧問弁護士が、空き家というよりは、権利関係が複雑になっている不動産の共有状態の不動産で、「売りたい」「売りたくない」ということで揉めている案件を担当していたんです。
家族の縁も切れたような、そんな状況になっているような案件などに携わっていたような弁護士でした。
「今後、こういったものは増えていくんだろう」と話をしながら思いました。
そこで、「これは、うちでもやれるんじゃないか」と思い、まずは「訳あり不動産の解決」のランディングページを作ってみたところ、意外と反響がありました。
最初はいろいろトライアンドエラーもありました。
しかし、これがモデルとしてある程度しっかりとなったので、今はそっちの方向に向いてきているという状況です。
それが2020年の春頃からです。
ーー今までも空き家はあったと思いますが、不動産会社ではあまり取り扱われないものなのですか?
やっている会社は、いくつかありましたが、僕らが思い浮かべるような大手の不動産会社は、やっぱりやりたがらないです。
というのも、権利関係が複雑なので、裁判で最終的に解決していくこともあります。
やっぱり大手はリスクを取りたくないのでそもそもやらないというケースが多いです。
また、裁判になると1年〜2年はかかるので、今月仕入れた案件がいつ売却できるのか分かりません。
そうすると、資金繰りが結構厳しくなってきてしまいます。
ーー空き家事業でとくに苦労されたことは何ですか?
僕自身がそもそも、こういった不動産の買取自体は扱っていませんでした。
物件が良いものかどうか分からず、最初は金額を間違って買ってしまったということもありました。
この領域は新しく参入してくる人も少ないです。
「儲かるかな」と思って入って、僕のやっていることとかを見て、「 真似してちょっとやろうか」みたいな感じで参入してきても、半年後〜1年後くらいにはもう「いなくなってるね」「やらなくなっちゃったよね」みたいなところがあります。

難案件にも対応──空き家ビジネスで選ばれる理由とは
ーー空き家事業をされている会社と御社の差別化ポイントを教えてください。
大きい差別化というと、同業他社でやっている会社は、地上げ的な感じでやられているような会社が昔から多いと思います。
そうすると、上から目線の人とかも多いですし、嫌がらせをして出させる、というようなことをやられているような会社などもあるようです。
そのため、そういった会社は、あまり表に出てこないです。
実際、やりたい放題やっているような会社が多いようです。
うちはもともと、そういった東証の不動産の販売をしていた人間が、営業のキャリアとしては結構多いので、「同じ金額だったら絶対うちに売ります」って言ってくれることがあります。
人柄みたいなところもそうですし、営業マンの雰囲気みたいなところもあるかもしれないですが、これがやっぱり全然違うようです。
契約した後も「なんとか解約して御社に行けませんか?」「他社さんで決めちゃったけれども、なんかもう対応悪いから」と言われる会社が多いような気がします。
なかなか売りづらい上に、買ってくれる買主もいないので、上から目線で「買ってやるから」というような感じで対応する人が多いようです。
うちは、そこをしっかりと入口から対応をしっかりやれるので、その辺は営業の質のようなところは一つ差別化かなと思います。
あとは、「1都3県のみ」とか、「大阪の業者は大阪のみ」という形で対応している業者も多いようです。
うちは全国で対応しています。
ここも、他社とは差別化になるかなと思います。
ーー全国の物件に対応されていますが、遠方だと出張費などもかかり収益はあまり見込めないのではないでしょうか?
正直、現地を見なくても査定はできてしまいます。
ある程度、相場みたいなところで、いろんな不動産の情報サイトみたいなところにも情報が載っています。
あとは、全国の地場の仲介業者や不動産業者等とやり取りしながら、価格感を出していきます。
最終的に、いくらで売れるんだという査定価格が出たときに、プラスアルファで、現地の外観とか中の写真とかっていうのを売主からもらえればもらいます。
それだけである程度購入価格は出すことが可能です。
ーーこれまで権利関係が複雑なケースは何件くらい取り扱われてきたのですか?
うちは「訳あり不動産」と言われるような、権利関係が複雑なものというのは、300件くらいやり取りしています。
「こういうケースはどうなんだ」というような値づけは、ケーススタディが溜まってきたので、現地に行かなくてもある程度査定ができるという状況です。

失敗も財産に──訳あり物件への挑戦と顧客満足の裏側
ーー社長個人の成功体験・失敗体験を教えてください。
沖縄の那覇市内ですごくいい案件があったんですけど、当時は少し悩んでしまい結果としてうちは買えませんでした。
あの時買っておいたら、最初からしっかり事業としていいスピード感でやれたかもしれないなと思います。
成功体験は、たまたま早いタイミングで買って、1件解決できたことがありました。
その時 「しっかり利益出せるな」と感じ、本格的にやっていこうと思いました。
2020年の間はそういう感じだったので、最初は紆余曲折ありました。
ーーいわゆる「訳あり物件」を取り扱われていますが、売却後のお客さまの反応はどのようなものですか?
すごく感謝されることが多いです。
「この不動産を持っていて、これを子どもに相続したくない」と、気持ち的にも込み入っていることがあります。
「不動産を残したくない」という気持ちが強い人も多いです。
お子さんがいなくても、「関わりをなくしたい」とネガティブに思っちゃっている人も多いです。
うちが買い取って利用させていただくと「もう関わらなくていいんだ」とほっとされる人も多いです。
課題解決のパートナーへ──地域密着で築く信頼
ーー社長がビジネスをされる上で大切にしている考え方を教えてください。
「社会的に意義があるかどうか」は大事だと思っています。
不動産業は、ちょっとグレーなことをやっている会社も多かったり、透明性がないと感じている方もいます。
それこそ“地面師”みたいなことやっている人もいるのが事実です。
なかには「会社は潰れても、また何か新しい会社を作って…」という人がいますが、「社会的に必要とされるサービスかどうか」ということがあるからこそ、会社は伸びていくと思っています。
権利関係が複雑な地方の空き家を、自治体と連携しながら買い取っているので地方創生的な意味合いを持って取り組んでいます。
ーー地域社会との関わり方や、地方創生への取り組みについて教えてください。
現在は岩手県紫波町、愛媛県八幡浜市、岩手県宮古市と連携協定を締結しています。
どの自治体も、空き家対策として担当窓口での相談や空き家バンク等の取り組みを行っていますが、相続による所有権の複雑化や残置物処分の課題などにより、空き家の活用や除却に至らない場合が多くあります。
そのような課題を、これまで訳あり不動産の買取してきたノウハウを活用して解決したいと考えています。
当社のもつ空き家買取再販ノウハウと自治体のもつネットワークや空き家情報を掛け合わせて、少しでも多くの空き家を流通させていきたいですね。
ーー今後の業界のトレンドと、そのトレンドに対して御社がどのように動く予定なのかを教えていただけますか?
私たちがやっているような「訳あり不動産の買取」というのは、しっかりと利益を出して解決している会社は少ないと思います。
しかし、これから空き家がどんどん増えていく中で、僕の会社だけでは絶対に解決できないと思います。
やっぱり競合になるプレイヤーが増えていかないといけないですね。
あと、やっぱり自治体って、地方に住んでいる人からすると、すごく信用・信頼があると思います。
「役場の誰々が言っているから間違いないよ」ということがある中で、うちはまだまだ認知も足りないので「信用できるのか?」みたいなことも言われます。
しかし「自治体とも連携しています」と伝えると安心してもらえるので、今後も多くの自治体と連携していきたいです。
自治体も人口が減っていく中で、うちがやれることと自治体の目指すべきところって合致する部分が大きいと思っています。
今後は「地方創生ビジネス」をしっかり形にしていきたいと思っています。
具体的には、自治体に社員を派遣して、自治体の課題や、うちができることをやれば実績が横展開できると思います。
ほかにもJ2のクラブチーム「水戸ホーリーホック」と、Jリーグクラブとしては初めて空き家の連携協定を結ばせていただきました。
うちは水戸ホーリーホックのスポンサーさせてもらっていて、一緒に「空き家解決やろうよ」という話をして、 クラブハウスで連携協定を結ばせていただきました。
今後も自治体だけではなく、スポーツチームと一緒にやって、人を呼び込める取り組みを一緒にやっていきたいと思っています。
たとえば空き家を改修してサッカーチームとイベントができるような拠点にする等を中期的にはやっていきたいと思っています。
ーー今後、上場や海外進出などは考えておられますか?
今は、IPOのメリットがあまり大きくないと感じています。
もちろん資金調達できればやれることは増えるのですが、一方で今やっていることができなくなる可能性もあると思っています。
自治体との連携の中で「株主からどう見られるか」とか、利益を出していかなきゃいけないというプレッシャーが出てくると、今やっている社会的に意義のあることが変わってしまうかもしれない。
するかしないかで言えば、絶対しないというわけではないけど、今はそこを注視している状況ではないです。

地域の力になりたくて──空き家問題と向き合う想い
ーー最後に空き家問題を抱えている方や自治体に向けてメッセージをいただけますか。
水面下で話している自治体は10〜20くらいありますが、まだお話していない自治体にも届いたら嬉しいです。
空き家問題で困っていない自治体って、ほとんどないと思っています。
たとえば世田谷区にも、空き家が5万件あると言われています。
多分どこも困っているはずで、地元の不動産業者さんと連携を組んだり、宅建協会さんや司法書士会と組んだり、いろいろやっているとは思うんですけど、それが解決につながっているかというと、全然そうじゃないケースが多いです。
うちは「買取ができる」っていうのが強みで、「仲介しますよ」「空き家バンクに載せますよ」「マッチングサイトでやってますよ」というところはありますが、結局売れるかどうか分かりません。
しかし、うちは買い取るので、その時点で問題を全て解決できる。
地元の業者さんが買取できないから放置されるっていう問題も、うちが買い取ることで解消できます。
そのため、地元業者さんとも対立は起きず、一つでも空き家が地域からなくなることは、すごく良いことだと思っています。
空き家問題で困っていたり、対応できるリソースがないという自治体があれば、ぜひうちとコミュニケーションを取りながら、一緒にできたら嬉しいです。