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大学4年の途中で外務省へ。異色のキャリアが始まった
まず、鈴木社長のご経歴についてお聞かせください。
もともと専門学校でスペイン語を2年間学んだ後、大学に3年次から編入したのです。スペイン語を学んだからには絶対に使いたいという想いがあり、就職を考えた時、外務省の大使館で働くことが一番直結していると感じました。
実際に外務省で働くことになった経緯を教えてください。
外務省の採用が決まったのは大学4年の途中でした。ただ、派遣の開始時期が9月だったため、卒業を待たずに必要な単位を取り終え、在学中に働き始めました。
そして配属先は中米のニカラグア。日本大使館で大使員として、スペイン語の通訳や現地企業との交渉、日本から来る政府関係者のアテンドを担当しました。日本が建設に関わった学校を訪問して現地の状況を確認したり、日本語の授業を行ったりと、本当にさまざまな仕事をさせていただきました。
外交官としてのキャリアは順調に見えましたが、その後別の道を選ばれたのですよね。
着任した当初は外交官として生涯歩んでいこうと思っていたのですが、途中から気持ちが変わっていったのです。次は国連に入りたいとも考えたのですが、どのルートも「キャリアアップの先が見えすぎている」という感覚がありました。
ニカラグアという国に住む中で、選択肢が無限にあるということに気づいたのです。それまで知らなかった世界が目の前に広がっていた。それなら、もっと自分が好きなことをやってみたいと思うようになりました。
そこで、実際にどのような決断をされたのでしょうか。
外務省から推薦もいただいていたのですが、それを辞退して、上司に「バックパッカーになります」とお伝えして、中南米の縦断の旅に出ることにしました。

「危険な国」という誤解を解きたい。YouTubeで発信を始めた理由
バックパッカーへの転身で、何を1番伝えたかったのでしょうか。
ニカラグアに住んでいて、ずっと悔しかったことがあります。世界一周をするバックパッカーやブロガーたちの間で、「世界で最も危険な国」ランキングのようなものが出回っていて、ニカラグアがそこに入っていたのです。実際にはそんなことは全くないのに、間違った情報だけが先行して、人々はニカラグアを素通りしていく。それがとても悲しく、悔しくて。
その悔しさが、発信という形につながっていったのですね。
3年間の赴任中に1人で各地を旅して、ニカラグアだけでなく、中南米には本当の姿を知られていない場所がたくさんあると気づきました。専門学校・大学時代の友人と一緒にYouTubeチャンネルを立ち上げて、中南米を縦断しながら各地の魅力と正確な情報を発信しようと決めたのです。
旅の準備には1年かけられたそうですね。
出発の1年前から、ニカラグアにいる私と日本にいる相方が、2週間に1度のペースでオンラインミーティングを重ね続けました。YouTubeの構成から、その後の起業の流れまで、1年かけてじっくり計画を練り、お金を貯めて、準備を整えてから動き始めました。
実際に旅をしてみて、印象に残っていることはありますか。
旅のほとんどをホテルではなくホームステイで過ごしたことが、今の自分を作ったと思っています。現地の家族と一緒に食卓を囲んで、言葉を交わして、生活を共にする。時には先住民の集落に泊めていただいたこともありました。日本にいては絶対に経験できないことが、毎日のように起きていました。
その体験が、今の事業にもつながっているのでしょうか。
あの旅で出会った人たちへ恩返しがしたいという気持ちが、事業の原点にあります。自分たちがお世話になり続けた旅だったからこそ、今度はスペイン語圏から日本に来てくださる方々に、自分たちのすべての力を使って本気で楽しんでもらいたいと思っています。

「橋渡し」を会社という形で実現する理由
帰国後に起業されたのは2020年ですね。会社という形を選んだのはなぜですか。
旅の途中でボランティア活動もしていたんです。現地の施設で服を配ったり、日本の企業と連携して本当に困っている人たちに喜んでもらえることを考えたり。でも、ボランティアは資金がなければ続かない。
それならば、中南米の魅力を発信しながらきちんとお金を生み出す仕組みを作って、自分たちがやりたい活動を持続的にできる状態にしたい。それが起業の出発点です。
社名の「ちゃんちーとす」にはどんな意味があるのですか。
「ちゃんちーとす(chanchitos)」はスペイン語で「子豚たち」という意味です。中南米では豚は縁起の良い動物で、幸運や豊かさのシンボルとされています。愛らしくて、親しみやすくて、それでいて縁起が良い。私たちが届けたいものを凝縮した言葉だと思っています。名前を聞いて「どういう意味?」と聞いていただけることも多く、それ自体が中南米の文化を伝えるきっかけになっています。
その名前には、会社としての想いも込められているのですね。
自分たちが稼いだお金をボランティアやイベントに投資して、本当に見せたいものを見せる、楽しんでもらいたいことを楽しんでもらう。そういう循環を作りたいと思っています。
輸入卸売り・語学教室・インバウンドガイド。「スペイン語」を軸に事業を展開
現在の事業内容を教えてください。
大きく分けると、中南米の食品輸入卸売り、スペイン語語学教室の運営、そしてインバウンドガイド事業の3つが柱です。
輸入卸売りは、メキシコ、ウルグアイ、アルゼンチンといった中南米各国の食品を日本に輸入して企業向けに販売しています。日本ではまだあまり知られていない本物の中南米の食文化を届けたいという思いから始めた事業で、現在は売上の中心を担っています。
語学教室はどのような方が利用されていますか。
スペイン語に興味を持ち始めた方から、ビジネスで使いたいという方まで幅広くいらっしゃいます。私自身が専門学校でスペイン語を学び、そこから人生が大きく動いた経験があるので、スペイン語が持つ可能性を一人でも多くの方に届けたいという思いで運営しています。また、語学教室を通じてスペイン語話者のコミュニティが広がり、それがガイド事業の人材にもつながっています。
インバウンドガイド事業はどのように展開されているのですか。
スペイン語圏からの訪日需要がここ数年で急増しています。私たちは周囲のスペイン語話者のネットワークを活かして、日本を訪れるスペイン語圏のお客様にガイドサービスを提供しています。昨年から本格的に動き始めたばかりで、まだ体制を整えている段階ですが、大きな伸びしろを感じています。
そうした活動の中で、ラテンフェスはどのような位置づけなのでしょうか。
ラテンフェスは年に1回、中南米に関わる企業やダンサーが一堂に会する大きなイベントで、私たちが主催しています。収益ではなく、食品の輸入卸売りで得た売上をここに投資して「中南米の本当の魅力を体で感じてもらう場」を作り続けることに、私たちは最も情熱を注いでいます。稼ぐ事業と、本当にやりたいことへの投資、その両輪で動いているのが私たちのスタイルです。

「知らない人でも家に泊めてくれる」。中南米の魅力を一言で言えば
中南米の魅力を一言で表すとしたら、どんな言葉になりますか。
「人と人の距離が近い」ということに尽きると思います。温かさ、陽気さ、どんな人でも受け入れる懐の深さ。バックパッカーをしていた時、まったく知らない私たちを普通に家に泊めてくれる人たちが、本当にたくさんいました。そんなことは日本ではなかなかないですし、危険な思いをしたことも一度もありません。
その魅力を伝えたいという思いが、今の活動の原点になっているのですね。
それなのに、ニュースになるのは危険な側面ばかりです。本当に温かくて、人が近い場所なのに、間違ったイメージだけが広まっている。その現実をどうにかしたいという気持ちが、私が今もこの仕事を続けている一番の動機です。
他社との違いは「現地の信頼ネットワーク」と「本物のスペイン語力」
同じく中南米関連や輸入食品を扱う事業者もいる中で、御社の差別化ポイントはどこにありますか。
一番の強みは、私自身が3年間ニカラグアに住んで、バックパッカーとして中南米21カ国をほぼ回り切った経験と、そこで築いた現地のリアルなネットワークです。ほとんどの国に知り合いがいます。ビジネスパートナーだけでなく、現地の人たちとの個人的なつながりがある。食品の輸入卸売りにしても、インバウンドガイドにしても、「現地で実際に生活した人間が選んだもの・案内するサービス」という信頼感が、カタログや旅行代理店とは根本的に違うと思っています。
ガイド事業での差別化について、もう少し詳しく教えてください。
翻訳アプリが普及した今、語学対応だけなら代替手段はいくらでもあります。私たちが提供しているのは、言語の壁を越えた先にある「文化的なコミュニケーション」です。中南米の方々は、相手が自分たちの文化を本当に理解しているかどうかを敏感に感じ取ります。何が失礼にあたるか、何に喜ぶか、どういう場の作り方をすれば信頼が生まれるか。それは現地で暮らした経験からしか生まれないものです。
その価値観は、スタッフの皆さんにも共有されているのですね。
私たちのガイドスタッフは全員スペイン語話者のコミュニティから集まっていて、中南米への思い入れを持った人たちです。単なるアルバイトではなく、同じ志を持つ仲間として動いてもらっているので、お客様への接し方のクオリティが根本から違います。
次の一手は「企業間のビジネスマッチング」
今後の展望をお聞かせください。
まずはインバウンドガイド事業の体制を整えることが最優先です。昨年始めたばかりでまだ仕組みが追いついていない部分があるので、しっかり整えた上でさらに伸ばしていきたいと思っています。
その次に力を入れていきたいのが、日本企業とスペイン語圏企業をつなぐビジネスマッチング事業です。インバウンドのお客様の中には現地で経営者という方も多く、日本企業との接点を求めていらっしゃる方が少なくありません。
スペイン語圏の成長性についてはどのようにお考えですか。
メキシコをはじめ、中南米のスペイン語圏は今まさに経済成長が著しい地域です。日本だけでは市場の限界を感じ始めている企業にとって、まだ競合が少ないスペイン語圏は大きなチャンスがあります。逆に、日本に進出したいスペイン語圏の企業も増えています。その双方の橋渡しができる立場にいるのは、21カ国にわたる現地ネットワークを持つ私たちだからこそだと思っています。
どのような企業と連携したいとお考えですか。
ビジネスマッチングの観点では、これまでスペイン語圏を視野に入れていなかった日本の企業様と、ぜひお話ししてみたいです。アメリカやヨーロッパへの進出は検討したことがあっても、中南米はまだ見ていないという企業様は多いと思います。そこに大きなチャンスがあると感じています。
インバウンドの領域では、どのような連携をイメージされていますか。
インバウンドの面では、日本を訪れるスペイン語圏の富裕層に商品やサービスを知っていただきたいという企業様との連携も歓迎です。私たちのSNSや現地ネットワークを通じて、スペイン語圏のお客様に届ける力があります。

「広く世界を見ると、自分の世界が変わる」
最後に、読者の皆様へメッセージをお願いします。
日本に住んでいると、どうしても視野が狭くなってしまいます。海外から帰ってきた時に特にそれを強く感じました。ビジネスのアイデアを考えるにしても、知らない場所に行くだけで驚くほど視野が広がります。海外でなくても、国内でも自分が行ったことのない場所に足を運ぶだけで、ものの見方が変わることがあります。
鈴木社長ご自身も、その経験を重ねてこられたのですね。
私自身、専門学校でスペイン語を学んでいなければ外務省に行かなかったし、ニカラグアに赴任していなければ中南米の魅力に気づかなかった。バックパッカーに出ていなければ今の会社はなかった。知らない世界に飛び込むたびに、次の扉が開いてきた実感があります。
スペイン語圏のことが少しでも気になった方は、ぜひ一度私たちに声をかけてみてください。ビジネスのご相談でも、インバウンドのことでも、「中南米ってどんなところ?」という純粋な興味からでも歓迎です。広い世界を一緒に見に行きましょう。





