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M&Aを実体験した経営者 会計業界の変革とフリーランス事業の勝算

株式会社アルマ
取締役 末吉 令美奈氏
公開日:
2025.10.23
更新日:
2025.10.27

国際協力への想いから商社の道へ――価値観を変えたタイの山岳民族との出会い

まずは末吉さんの経歴から教えていただけますでしょうか。

私は京都大学大学院農学研究科で、地域環境科学系の分野を専攻し、熱帯農業生態学の研究室に所属していました。フィールドワークのテーマとして、タイの山岳民族であるカレン族の農業を研究するため、現地で長期間のホームステイを行いました。2007年に修士課程を修了する前の約20年前のことですが、その当時は電気や水道などのインフラも十分に整っていないような、そんな場所での生活でした。

当初は国際協力に興味を持ち、JICAや国連といった組織への就職を考えていました。しかし、タイのカレン族の人々と生活を共にする中で、私の価値観は大きく変わりました。物質的には貧しい暮らしでしたが、彼らが毎日を楽しく明るく幸せに生活しているのを目の当たりにしたからです。

その体験が人生観に大きな影響を与えたのですね。

タイの山岳民族の方々が毎日を楽しく明るく幸せに暮らしているのを見て、「お金がないことは必ずしも不幸ではない、今までの自分自身の国際協力への関心は、ある意味驕りだったのかもしれない」と思いました。

一方で、彼らが農作物を売りに行こうとした時、土砂崩れで道が寸断され、すべて腐ってしまうといった厳しい現実に直面するのも見ました。また、情報不足のために相場より安く買い叩かれることもあったのです。そこで、彼らの生活を根本的に支える「世の中の仕組みづくり」に貢献できる仕事をしたいと考え、商社を志望しました。

商社での17年間――デジタルサイネージから海外通信事業まで

最初のキャリアはどのように始まったのでしょうか。

丸紅株式会社に入社後、IT・情報通信事業を扱う営業本部に配属され、約17年間勤務しました。最初の担当はデジタルサイネージ事業の立ち上げで、当時はまだ普及していない新しい街メディアの構築に挑戦しました。広告代理店と連携し、設置場所の確保や鉄道会社との交渉などを通じて、約2年半にわたり貴重な経験を積みました。

その後はどのような事業に携わられましたか。

その後、丸紅の事業会社で、現在のアルテリア・ネットワークス株式会社の前身にあたる株式会社ヴェクタント(通信系事業会社)に出向し、営業やサービス企画を担当しました。本社に戻ってからは、同社のM&Aに携わったほか、特に興味深い案件としてミャンマーの通信民営化プロジェクトに参加しました。

ミャンマーの案件について詳しく教えてください。

国営独占だった通信事業を外資参入で民営化する国家プロジェクトに挑みました。最終選考まで残るも落選となりましたが、国際案件の難しさとスケールを体感する貴重な機会となりました。結果的に、その後の情勢を考えると最善の結果だったとも感じています。

駐在、結婚、出産、そして育児――ライフイベントがキャリア観を大きく変えた10年間

2014年にシンガポール駐在をされたとお聞きしました。

はい私自身はシンガポールをベースとして、ASEAN地域での事業開発を担当しており、駐在中の4年間は様々な案件に関与させて頂きました。

一方のプライベートでは、夫と2009年に結婚。夫は元々エンジニアでしたが、キャリアチェンジを考え、私の駐在に帯同し、その間に勉強をして、公認会計士の資格を取得。2016年に、私の実家のグループ会社である大野公認会計士・税理士事務所に参画することになりました。

私自身は、2016年以降は、タイの案件を手がけていて、2018年4月にはタイへの駐在が決まっていましたが、その矢先に妊娠が判明し、最終的には日本に帰国して出産しました。

お子さまの出産後、大きな試練があったとお聞きしました。

2018年10月に出産したのですが、息子に呼吸器系の疾患が見つかり、NICUでの入院治療を行いました。この経験を通じて、これまで仕事中心だった自分の価値観が大きく変わり、子供を第一に考えるようになりました。

復職後は働き方を変えられたのですね。

復職はしましたが、時短勤務に切り替え、出張も残業も基本的にできない状況でした。会社には「子どもに何かあったらお休みをいただきます」というスタンスを明確に伝えました。そのような制約がある中でも、これまでの経験を活かして、アルテリア・ネットワークス株式会社(通信系事業会社)への出向や新しい投資案件のPMO業務など、興味深い仕事に携わることができました。

ただ、大きな組織の中で働くことへの葛藤を感じる日々が5年間ほど続きました。子育てと仕事の両立は、自分自身の選択で、どちらかを犠牲にせざるを得ない場面が多く、同じような悩みを抱えている人たちのソリューションになるような事業を考えるようになりました。

40年の歴史を持つ会計事務所グループへの参画

アルマグループについて教えてください。

アルマグループにはコンサルティングを中心に行う株式会社と会計事務所、監査法人、社会保険労務士法人があり、創業から40年以上の歴史があります。

私の両親が公認会計士で、二人とも大手監査法人で経験を積んだ後、母は1981年に大野公認会計士・税理士事務所を設立しました。一方、父は友人と共同で、現在のアルマグループの源流となる組織を立ち上げました。

アルマという社名の由来は何でしょうか。

「アルマ」には「武器」という意味が込められています。その言葉の通り、経営者の強力な「武器」となれる存在でありたいという思いを込めて、この社名をつけたと聞いています。

それは、単なるアドバイザーとして外から助言するのではなく、経営の中に入り込み、経営者と同じ目線で課題を考え、ソリューションを一緒に実行していくという私たちの理念でもあります。

フリーランスエージェント事業の譲受――M&Aの実体験

フリーランスエージェント事業を始められた経緯を教えてください。

2024年1月にアルマに参画をしましたが、それ以前から、子育てなど様々なライフイベントと仕事との両立で悩んでいる方々に、組織という枠に捉われずに働くことに対してのソリューションになるようなフリーランス向けサービスを考えていました。そこで縁あって、2024年7月に、「PRO WORKS(プロワークス)」というフリーランスエージェント事業を事業譲渡で取得しました。

M&Aを実行する上で、どのような点が大変でしたか。

このM&A案件は、私にとって大きな学びにつながりました。商社での経験から、デューデリジェンス(投資先の価値やリスクを詳細に調査するプロセス)は非常に細かく徹底して行うものだと考えていましたが、短期間での手続きを求められる中、限られた情報のもとで判断を下す難しさを実感しました。結果として、想定通りの収益化には時間を要しました。

競合他社もいる中での交渉だったのですね。

はい、他にも買い手候補がいらっしゃいました。その中で、私の事業に対する考え方やビジョンを評価いただき、譲渡を受けることができました。

一方で、中小企業のM&Aにおいては、情報の限られる中で判断を迫られる場面も少なくなく、十分なデューデリジェンスを行うことの難しさを痛感したのも事実です。この経験は、今後同様の案件に取り組む際の貴重な教訓になったと思います。

会計業界の変革とDXの波

会計業界の今後の変化についてどのようにお考えでしょうか。

AIが業界構造を大きく変えていくと考えています。すでにChatGPTのようなツールで代替可能なサービスも多く、効率化は必然的な流れです。当社でも記帳代行などのアウトソーシング業務を行っていますが、こうした業務は確実に効率化されていくでしょう。

そこで重要なのは、最新テクノロジーの情報をキャッチアップし、パートナー企業と組んで積極的に導入していくことです。夫が元エンジニアでITに精通していることと、私もIT部門での経験があることから、そうしたネットワークを活用できる強みがあります。

DXに関して、具体的にはどのような取り組みをされていますか。

AI開発会社と組んで、フリーランスエージェント事業のシステム改修を進めています。マッチング精度をAIで向上させたり、人が作成していたサマリーを自動化したりといった業務改善を行い、こうしたサービスをお客様にも展開しています。

今後、会計事務所への入社が決まっているメンバーもDXや業務改善に興味があって当社に参画してくれることになりました。業界の変化に対応していくため、こうした人材の確保も重要だと考えています。

フリーランスの価値を高める事業展開

フリーランス市場の現状と今後の展望について教えてください。

現在、日本のフリーランス人口は209万人、労働人口の約3.1%(総務省統計局 令和4年就業構造基本調査)を占めています。この数は今後も確実に増えていくと考えています。一方で、企業に属していれば得られる教育制度やスキルアップの機会が、フリーランスには不足しているという課題があります。

既に市場では二極化が進んでおり、非常にスキルの高い人材は引く手あまたで、案件の選択に困ることはありません。しかし、取り残されてしまう方々はいつまでも案件が決まらないという状況が生まれています。

そうした課題に対してどのようなソリューションを考えていますか。

リスキリングの支援は中小企業の従業員向けには整備されていますが、フリーランス向けの支援は十分ではありません。私は、フリーランスの方々のスキル底上げを支援する仕組みづくりを今後仕掛けていきたいと考えています。これは日本の生産性向上にも直結する重要な取り組みだと考えています。

PRO WORKSの登録者は現在、エンジニアが約半数を占め、その他にマーケターやデザイナーなど多様な職種の方が登録されています。丸紅グループでの経験から、大手企業からの引き合いも多くいただいており、フリーランスの方々に質の良い案件を提供できる環境が整いつつあります。

求める人材とビジョン

最後に、どのような方との協業を希望されていますか。

会計事務所では、DXに特色のある事務所として、従来の顧問業務だけでなく、ソリューション提案も含めて課題解決できる業務に魅力を感じていただける公認会計士や税理士の方と一緒に働きたいと考えています。

フリーランス事業では、登録者の拡大を図りたいと考えています。現在はエンジニア中心ですが、今後はより幅広い職種の方々にご登録いただき、多様な案件とのマッチングを実現していきたいと思います。

今後のビジョンについて最後にお聞かせください。

組織という枠にとらわれない働き方ができるプラットフォームを作り、フリーランスの価値を社会全体で高めていきたいという想いがあります。元々のアルマのコンセプトである「経営者の武器になる」というソリューションに、フリーランスの方々のスキルを活用させていただくことで、お客様により太いサポートを提供できると確信しています。

40年以上の歴史を持つ会計事務所グループの事業承継と、新たなフリーランス事業の展開。この二つを両輪として、これからの時代に必要とされるサービスを創造していきたいと考えています。

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COMPANY 企業情報

企業名
株式会社アルマ
代表者
大野 公久
所在地
東京都新宿区北新宿1-4-1 アルマビル9階
設立
昭和56年8月
事業内容
総合経営コンサルティング業務
総合税務・会計顧問業務
相続税タックスプランニング
アウトソーシング業務
監査業務
コンサルティング業務
フリーランス/プロ人材派遣サービス業務
HP
https://www.arma-as.co.jp/

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