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自動化で進めるスマート農業戦略【人手不足・重労働】現場が抱える課題を解決
現場の声に耳を傾ける「モノづくり」企業のあらまし
まずは稲員さんご自身のご経歴についてお伺いします。
私は福岡県の工業高校の電気科を卒業後、まず上場企業の日本タングステンという会社に入社しました。そこで機械関係の保全や社内設備の電気工事などを担当。その後、旧社名で第一精工、現在のI-PEXという会社の半導体製造事業部に転職し、プログラミングを学んだり、海外向け主力製品の開発業務に携わったりという経験を積みました。
技術者としてのキャリアは、まさに日本の製造業の変遷とともに歩んできたものなのですね。
はい。半導体業界での経験を経て、3社目のアサヒエンジニアリングでは半導体製造装置のソフトウェア開発に従事。その後、三和システムという会社では営業兼新規顧客開発事業に取り組み、3年間で10人規模の部隊を率いて新たな顧客を開拓するという実績を残しました。
その後、独立して個人事業主としてアイナックシステムを創業し、3年後に株式会社アイナックシステムとして法人化しました。株式会社としては現在15期目を迎えたところです。
御社はどのような事業からスタートされたのですか?
主に半導体製造装置向けの開発業務で起業しました。実は独立する時には、すでに確定したお客様がいらっしゃったので、創業と同時にお仕事をいただくことができました。ただ、その段階では社員を雇用するような状況ではありませんでしたが。
スタート自体は順調でしたが、半導体業界特有の浮き沈みの激しさに直面。そこで、社員が増えてきたタイミングで、主に物流関係のお客様の方にシフトしました。物流関係の制御システムの需要が増えてきたところで、社員を増やし事業を大きくしてきました。
そして2018年から本格的に農業用の収穫ロボットの基礎研究を始めました。現在取り組んでいるイチゴの収穫ロボットと、土壌の局所土壌ヒーターシステムの開発は、この時からスタートしています。

ビジネスを展開するなかで、御社が大切にしていることは何でしょうか?
最近特に意識しているのは、自社のパーパス(存在意義)をどこに置いているかということです。創業時には、正直パーパスを明確に作っていませんでした。ビジョンとバリューだけがあったような感じで、何に向かっているのかを表せなかった部分がありました。
『自動化の力で、世界をより良く。』
パーパスが明確になることで、私自身のやるべき方向性が見えてきました。やはり企業として、なぜ存在するのか、何のために事業を行うのかを明確にすることは本当に大事だと思っています。
農業や工業の現場を支える自動化エンジニアの専門家集団としてできること
現在は、さまざまな業界と関わりを持ち事業を展開していらっしゃると伺いました。
そうですね。半導体一本に絞らずに、業界を分散させることを意識してきました。特に物流に関しては、様々な業種のお客様がいらっしゃるので、例えば自動車不況とか食料品の一時的な浮き沈みにあまり左右されない業界だと認識しています。
この戦略的な業界分散が、当社の安定した成長を支えている。物流業界は拡大していく分野でもあるため、安心して取引ができ、将来的な見通しがつくという判断もありました。
さまざまな業界に関わっているからこその、他にはない御社の魅力についてお聞かせください。
私たちの強みは、現場の声に耳を傾けながら培ってきた『モノづくり』のノウハウにあります。半導体、物流、そして農業と、それぞれ異なる業界の現場で求められる自動化技術を提供してきた経験が、他社にはない価値を生み出していると思います。
また、異なる業種と関わり「業界の浮き沈み」の影響を受けにくいという点で、お客様に「安心して取引ができる」と感じていただけているのも、魅力のひとつではないでしょうか。

事業を展開するなかで「自動化」や「省力化」に関する需要の高さは感じていらっしゃいますか?
非常に高い需要を感じています。DXとかAIとかいろいろ言われますが、実際に人が働いている現場の自動化というのは非常に重要です。人口減と就労人口の激減を考えると、一番急務で自動化しないといけない分野が、あらゆる業種にあると捉えています。
食料品を作るにしても、運輸・輸送するにしても、すべてが自動化されないと、今の生活を維持するためのサービスが成り立たないと思っています。だからこそ、自動化の技術には確実に需要があると考えています。
自動化のニーズは幅広いジャンルで求められている、ということですね
まさにその通りです。人口の減少、就労人口の激減に伴い、自動化が求められる業種は多くあります。
たとえば、農作物を収穫したり工場で製品を作ったり、さらにそれらを輸送するときにも本来多くの人の力が必要ですよね。
しかし、人口が減っているので働く人も少なくなっています。特に私たちの暮らしに直結する、食品や運輸といった分野は自動化が急務と言えるでしょう。むしろ、自動化が進まないと、今の生活を維持するためのサービスが成り立たない。そんな状況にあるのです。
人が減ったからといってモノの生産量が大きく減ることはありませんから、人が減った分を省力化や自動化で補っていく必要があると思っています。

自動化が進むこれからの時代に必要とされる人材とは、どういった人だとお考えですか?
自動化に関するソフトウェアを作る技術者・エンジニアのニーズは、これから今まで以上に大きくなっていくでしょう。
そういった技術者を育てている企業は少ないですし、実際いくら育てても人手不足感が強いと感じています。
日本では機械や設備の自動制御に、専用のハードであるPLC(プログラマブルロジックコントローラ)を使っている企業が多いです。しかし、このPLCは世界標準ではなく、昔の携帯電話と同じで「ガラパゴス化」している状態なのです。古い機器を使っているところだと、長く経験を積んだ人でないとうまく取り扱いができない、というのも課題で。
PLCはプログラミングにラダー言語を用いますが、これからはPython(パイソン)など今のトレンドの言語を学んだ人たちがさまざまなものづくりを進めていくようになるでしょう。弊社としても、そういった時代の流れにマッチした取り組みを進めていきたいですね。
地域の大きな課題を「自動化」の力で解決したい
御社が現在特に力を入れている事業について教えてください。
現在は農業用の設備、スマート農業事業に特に力を入れています。イチゴの収穫ロボット『ロボつみ』と、土壌の局所土壌ヒーターシステムの開発・販売を通じて、農業の自動化・省力化に貢献したいと考えています。
私たちがいる福岡県、特に私が生まれた福岡県の八女郡広川町は、まさにイチゴの産地・名産地です。そこでは、イチゴの名産地とはいえども、寝る時間も削って収穫作業をして、東京や大阪などの大きな市場に出荷して喜ばれているという現実があります。その地域の大きな課題を解決したいというのが、イチゴ自動収穫ロボット『ロボつみ』を開発し続けている理由です。
私の思いと、福岡県知事をはじめ福岡県の皆さんのイチゴに対する愛情が重なって、応援や協力をいただきながら、『ロボつみ』がだんだん完成してきました。この『ロボつみ』という機械は、福岡県のイチオシの名産物を支えていくための地域課題解決そのものだと思っています。

今後は他社さんとパートナーシップを組んだり業務提携をしたり、といった可能性もありますか?
そういったお話は結構いただいています。ただ、現在のところ、どちらかというと人手不足解消のためのFA技術だけが欲しいというお話が多いですね。農業分野、アグリテック分野については、まだ見る目が冷やかで、直接アグリテックを欲しいというお客様はまだ多くないのが現状です。
アグリテックに関して、本当に一緒にやっていけそうな強い組み合わせがあれば、それも検討したいと思っています。今は販売を始めているところで、大きく資金が必要な段階でもありますので、まったく検討しないわけではありません。
特に、スマート農業に対して親和性のある企業とのコミュニケーションは積極的に取っていきたいと考えています。
最後に、今後のビジョンについてお聞かせください。
今後も、柔軟な発想と先進制御技術で工場や農業の現場における自動化やIoT化を推進するためのものづくりを進めてまいります。
特に『ロボつみ』は、福岡県だけでなく全国に出ていくようになってほしいですね。いちごの産地やこれからいちごの生産に力を入れていこうという地域に、『ロボつみ』を届けられたら嬉しい。そのために、今後はいちご農家さんをサポートする人材や営業する人材を増やし、福岡以外にも拠点を作っていきたいと思っています。
農業はやりがいのある仕事ですが、重労働だったり人手不足だったり大変な面も少なからずあります。しかし、近年は食への健康意識や地域活性化といったポジティブなイメージが高まっていますので、農業に対して思い入れのある人や熱意のある人とつながりができれば嬉しいですね。